竹内銃一郎のキノG語録

競馬も芝居も、やればやるほど難しくなる 「Moon guitar」終わる2014.10.27

昨日は菊花賞デー。お昼前に競馬場に行き、POGのマイ・ホース、ラディカルのデヴュー戦を見る。パドック予想では可もなし不可もなしとして△印に。愛馬とて、ダメなものはダメ。競馬に過剰な思い入れは禁物なのだ。結果は6着。ま、こんなところでしょ。人気薄だがパドックで絶好の出来と見た馬が鮮やかに勝つも、相手と見た一番人気の馬が3着に負けて、ワイド馬券のみ的中。まずまずの満足を抱えて帰宅。菊花賞は家でテレビ観戦。前走の神戸新聞杯でも買って馬券を取ったサウンドオブアースは絶好の出来。負けても2着は外すまいとこの馬からの馬券を買ったが、肝心の相手馬、これまたパドックで絶好と見たトゥザワールドが、まさかまさかの16着。逆転するならこの馬と思って買った一番人気のダービー馬、ワンアンドオンリーも9着と惨敗。勝ったトーホージャッカルは、実績の割りに人気になりすぎと軽視して馬券から外していた。ああ! しかし、馬の名に他の動物名をつけるセンスってどうなのよ。確かに、短い距離ならジャッカルは馬より速いはずだが、3千メートの長丁場なら馬がジャッカルに負けるはずはないのだ。あってはいけないことが起こってしまった。もう、口惜しい!

口惜しさ抱えて伊丹アイホールへ。この日はA級M「Moon guitar」の千秋楽。なのに、芝居も見ずに競馬かい? と、わたしに不信の念を抱かれる方がいらっしゃるかもしれませんが、スミマセン、わたしはそういうヤツなんです。以前にも書きましたが、先の震災の時も、難波の場外へ馬券を買いに出かけましたし、弟の法事の時には、ラジオで実況を聞いてましたし、昭和天皇が亡くなった翌日、後楽園の場外へ行って、「今日は競馬は?」と係員に聞き、「こんな日にやってるわけないだろ」と軽蔑の眼差しを投げかけられた男です。病人だと思って大目に見てやってくださいまし。

芝居は、初日とアフタートークがあった土曜の夜と二度見た。二度目の舞台は、初日よりも10分近く短くなっていたが、やはり上演時間2時間は長すぎると感じた。演出の土橋くん、それから出演した俳優諸君には、なぜ長くなってしまったのか、短くするにはどうすればよかったのかを、打ち上げのときに話した。横長の舞台で、俳優が袖から登場して定位置に到着するまでの時間が間延びした。セットは日常空間風になっていないのだから、早めに登場してそこで待機し、そこから移動すれば時間は短縮できたのではないか、と。それはほんの2、3秒のことだけれど、チリも積もれば山となるだから、と。それから、台詞を出すタイミングも、ケースバイケースだが、0.5秒でも縮めればこれも全編通せばそれなりの時間になるはず、と。なんでも縮めればいいというわけではないが、それぞれの芝居にはそれぞれの適性上演時間というものがある。その適性時間から、5分短かったり10分長かったりしたら、それはもう別の芝居になるのだ。更に、俳優が情緒に流れることもチェックした方がいいと伝えた。多くの俳優は、情緒的・感傷的な気分を抱えながら芝居をするのが大好きだ。だから、どうしても不必要に芝居が長くなる。ましてや、今回はまがりなりにもハードボイルドだ。情緒はサクサク切って捨てないと。健さんのように、ツバを吐くように台詞を言えないものだろうか。

長台詞はどう言えばいいのか、という話もした。長台詞の概ねは、実況中継のように現在進行形を語るわけではなく、過去の話、いま現在、目にすることは出来ないことを話す。だから目に見えない、不可視の情景をいかに可視化するかを主眼におかなければいけない。わたしがその時、いかに苦しかったか、いかに哀しかったか、そんなことは二の次三の次でいいのだ。どのように語れば、どのような声でどれくらいのスピードで、どこで間をとりながら語れば、観客にその情景を思い浮かばせることが出来るのか。考えるのはそれだけでいいし、それが出来れば、観客はそのように語るその人間がいまなにを、どんな感情を抱えているかが分かるはずだ、と。 先日、NHKの「カラーで見る東京100年」というようなタイトルの番組で、そんな語りを聞いた。それは、先の東京オリンピックの開会式を見た作家の杉本苑子が、その感想・感慨を書いた文章で、20年前、学徒出陣で若い学生たちが戦地に赴く出陣式を行った同じ場所で、今日は平和の祭典が行われている。20年後にははこの国はどうなっているだろうか、といった内容のもの。これを静かにゆっくりと語りかけるように語る女性の声に驚き、声の主は誰かと思ったら八千草薫さんだった。なにを訴えるわけでもない、だが、作家の声、伝えたい思いが正確に聞き手に伝わってくる。これは長台詞の絶好のお手本だと思った。

今回のA級Mの公演には、多くの知人が来てくれた。いちいちお名前は挙げませんが、お忙しいところ、本当にありがとうございました。わたしの知る限り概ね好評で、関係者のひとりとして、とても嬉しく思っています。そして、土橋くんはじめ、今回の公演に関わったスタッフ・俳優の皆々様、お疲れさまでした。わたしに発表の場を与えてくれたこと、とても感謝しています。今回の公演が劇団及び皆さんの今後の糧になればと、願ってやみません。

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