竹内銃一郎のキノG語録

上海から来た短期留学生たち、なんて芝居が上手いの?2012.07.18

お尻に火がついた。本を書かねば、「蒸気愛論」を。
今回のチラシ制作を頼んだ武田さんは仕事が早い。遠く彼女が住む尼崎からサクサクという音が聞こえる。
かの木嶋嬢を主人公(?)にしたノンフィクション「別海から来た女」読了。マスコミもこの本の著者も、繰り返し彼女がブスでデブだと書くが、もちろん、決して美人ではないけれど、少なくともこの本の表紙に使われた彼女の写真は、言うほどブスじゃない。わたしの思うところを言えば、美人は1万人にひとりくらいで、あとの9千数百人はどんぐりの背比べ、蓼食う虫も…の類だ。
顔と言えば、昨日テレビで見た鳥羽一郎の顔が凄かった。雑巾を煮しめたようなという形容がぴったり。その声もその顔に見事にマッチングしていて。なんかちょっと感動してしまった。
同じ番組で、石川さゆりが「天城越え」を熱唱。それはいいんだけど、そのバックで能楽師ふたり、変に大仰な、その分安っぽい装束を着けて、曲に合わせて舞っていたのだが、それがただもうウロウロしてるだけの無様さ全開で。うまくいくわけないでしょ、歌謡曲にあわせて舞うなんて。ちょっと考えれば分かりそうなもの。なんでもやりゃあいいってもんじゃない。
先々週から大学に上海から短期留学生が来ていて、週に1コマ3週間、彼らの授業を受け持つ。橋本治の「愛の矢車草」の一部をテキストに芝居をさせた。商船大学の日本語学科の学生だから、別に芝居をやりたいわけじゃなく、半信半疑で始めたが、これが! 初見でスラスラ本が読めて、今日の最終授業では台詞も暗記させてああせいこうせいと演技の注文も出したのだが、ほぼこちらの要求に沿った芝居が出来たのにはびっくり。
正直、うちの学生に比べても遜色ないというか、それ以上だったのでちょっとショックを受けてしまった。
録画してあった「マイバックページ」を見る。予想以上の出来。W主役の妻不木聡と松山ケンイチを始めとして、俳優陣いずれも悪くない。とりわけ出番が少ないがその声が耳に残る忽那汐里が思いのほかよく、それから1シーンしか出ない三浦友和が重いパンチを放つ。
監督は山下敦弘。このひとの名を知ったのは、元木隆史の傑作「ピーカン夫婦」の出演者として。軽い芝居をすると感心したら、実は監督だったのだ。そうだ、「マイバック…」のタイトルロールに元木の名前が変なところに載っていたが。
原作も久しぶりに読む。やっぱりムカツク。著者の川本氏とは一度だけお会いしたことがある。わたしの芝居を見に来て、同行した編集者に紹介されたのだが、まともに挨拶もせず。あとでシャイなひとだからと聞かされたが、そういうことじゃないな。ひととしてなにかが欠けてるよと思ったのだった。それは、この本のメインになっている「赤衛軍」事件に関するこのひとの対応の仕方にやはり認めがたいことを感じていたという、その先入観も手伝っていたのかもしれないが。
やっぱりこのひとちょっと世間を甘く見てるよな、と不快感が残る原作に比べると、映画はずっと冷静で清潔。それは主役の妻不木が醸し出す空気感なのかもしれない。

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