竹内銃一郎のキノG語録

半グレとMoon guitar2013.11.13

先週土曜、A級ミッシングリンクの「あの町から遠く離れて」を見る。
舞台は海上を航行中の船室。離婚協議中の夫婦が田舎の島から大阪(?)へ帰る途中で船が故障。そこでのあれこれ。乗客のひとりが構想中の映画の一部が挿入されたり、時間が唐突に過去や一年後に飛んだり。
来年5月の公演を前提としてのトライアウト(試演?)というためであろう、台本レベルでいささか不明な点もあったが、いつものように明晰な演出力で、緊密な舞台となっていた。
土橋演出の明晰さとは、ひととひと、ひととものとの、距離測定が理に叶っていて、なおかつ美しい、このことに尽きるように思われる。逆に、見ていて腹立たしくなる芝居は、この距離測定が出鱈目、というか、そんなことにはまったく無頓着なのだ。
溝口敦「溶けていく暴力団」も、論理が明晰で読ませる。同じくアウトサイダーの世界の現在を描いた須田慎一郎の本(タイトル忘却の彼方)とは月とスッポン。このひと、テレビでもなにを言ってるのかさっぱり分からないことを言ってる。なんで重用されているのか理解に苦しむ。同様の御仁、演出家にもいっぱいいますが。
溝口によれば、警察の締め上げで山口組以下、やくざはみんなもう青息吐息だという。早晩、この国からやくざはいなくなるのでは、とも。そんな事実と今後の推測をいろんなデーターを示しながら明らかにしていく。
よく知られているように、やくざ組織は擬似家族になっている。親分・子分は、むろん、親的存在、子供的存在という意味で、つまり、本当の家族をなんらかの事情で失ってしまった者たちが、やくざ組織に本当の家族(=保護・管理体)を求めて入るのだ。が、最近の若者たちはなによりその擬似家族関係がうっとおしいのだ。だから、先輩・後輩関係以上ではなく、規律もやくざよりはゆるい「半グレ」へと人材が流れているとのこと。
最近よく聞く「半グレ」のグレとは、愚連隊、グレてるのグレともうひとつ、一般市民でもなく、かといってやくざでもない、グレーゾーンにいるという意味のグレでもあるらしく、これは溝口が発信元らしい。
家族=血縁・地縁から自由になりたいという人々の志向と資本主義の進化はパラレルだとは佐伯啓思等が繰り返し語っているところだが、半グレの主な生業が、経済活動(オレオレ詐欺等)であるらしいのは、当然といえば当然の帰結なのだ。
肉体的な暴力が幅を利かせる時代はもう終わったのである。
ところで、なんでこの手の本を読んでいるのかというと、前述のA級の来年10月公演の台本をわたしが書くことになり、そのための資料なのだ。
以下が、その台本の目下のあらまし。
「Moon guitar」
【登場人物】
角中タクミ ……ギター職人、妻子あり。娘の名はまお。
あずさ ……タクミの妻、信用金庫で働いている。
松本カイジ ……あずさの兄、現在無職。
マオ   ……本名 富岡タケオ 中華料理店オーナー
テイ   ……謎の中国人
長尾みどり ……中国系商社勤務のOL
納富   ……タクミのかかりつけの医師
【物語】
ギター職人の角中の店に、マオが楽器の修理の依頼に来る。

月琴(=moon guitar)という中国の古い楽器らしい。マオは、闇社会とつながっているのではと噂されている人物。最初はつれなく応対する角中だったが、月琴に興味を惹かれ、その修理の仕事を引き受ける。
別の日。あずさをたずねて兄のカイジがやってくる。カイジは時々顔を出しては、あずさに金をせびるのだが、今回は金額の桁が違う。3千万円ほど用立ててほしいというのだ。もちろん、そんな大金があろうはずはないが、この二週間の間に3千万作らないと殺される、という。
みどりが、先日、修理を依頼したと言って、月琴を持って現れる。彼女は時々あずさの勤務先にやってくる顔見知りだった。
別の日。角中は医師の納富のところにいる。癌が進行していて、はっきりしたことは言えないが、余命は半年ないかもしれない、と告げられる。
別の日。マオが角中の家を訪ねている。あずさも一緒に歓談。マオと角中は、あずさが嫉妬するほど親しくなっている。そこへ、カイジが現れ、例の件にメドは立ったかとあずさに聞く。マオは、自分がいるべきではないだろうと、家を出て行く。角中も、あずさにふたりだけにしてほしいと言われ、出ていく。ふたりだけになると、カイジは、角中にお前の秘密をバラしていいのかとあずさを脅す。
この秘密が公になると、お前も角中も社会的に抹殺されるゾ、と。
別の日。角中は、相談したいことがあるとマオに呼び出される。マオは残留孤児の二世であること等、マオの過去・現在が語られる。テイが現れる。テイは角中に、殺しを依頼する。殺しの相手は、みどり。彼女は中国と日本の二重スパイで、某筋から殺しの依頼をされたが、自分が殺したことが判明すると、政治問題に発展する恐れがあるので、縁もゆかりもない、素人の角中に頼みたいと言う。
なぜ、俺に? と更に問う角中に、金が入り用なのだろう、自分が死んだあとの家族のことが心配だろう、という。彼が余命いくばくもないことを知っているのだ。そして代わりに、自分たちは、カイジを殺してやる、と。つまり、完全犯罪を期した交換殺人の提案なのだ。
そして ……
お気づきの方はお気づきのように、これは、以前にここにも書いたヴェンダースの映画「アメリカの友人」の換骨奪胎版。
先に書いたように、公演は来年の10月でまだ一年近くあるのに、もう書いているこのマジメさ!
唐(十郎)さんには様々な伝説があるが、まだ若いころ、出版社等から原稿依頼があり、当然のように締切はと担当者が言いかけると、いますぐに取りに来てくれと言ったという。
多分、短いものに限った話だろうが、つまり、そっちが原稿とりに来るまでにかかる時間内に書き上げた、ということなのだ。
そんな神業はわたしには無理だけれど、来年4月からは無職になるので、食っていくためには、原稿を頼まれたらすぐに書き出し終わらせて、次の仕事に備えなければと思っているのである。

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