竹内銃一郎のキノG語録

あすかのじけん2014.05.19

人気デュオのひとりが違法薬物使用の疑いで逮捕される。
当人は否認しているようなので、事実関係は目下のところ不明だが。
この種の人々のこの種の<踏み外し>の理由としては幾つか考えられよう。
ひとつめは、驕り。人気者になると、自分はなにをやっても許されるのではないかと思ってしまうんですね、きっと。周りにはイエスマンしかいないし。結果、自分の本来の身の丈を見失って、巨大な存在であるかのように錯覚してしまう、と。
ふたつめは、この逆で、孤立感。人気の低落が焦りを生み出し、自分はもう見捨てられている、誰からも必要とされていないのではないか、という。この状況を脱するためには、かってのような売れる曲を作らなければならない、このスランプから抜け出すためなら悪魔とも握手し、クスリの力でもなんでも借りて …
哀れというほかないわけですが。
カフカがどこかで、ひとの過ちの大半は焦りがもたらす、というようなことを書いていましたが、まことに、おっしゃる通りで。
みっつめは、これも焦りからくるものですが、危険=スリルの誘惑。してはいけないことに手を出す、発覚したら命取りになる、そんなこと判っているのにやってしまうのは、それが堪らないスリルをもたらすからでしょう。そのスリルが、クスリの力と手に手をとって、落ち込んでいる気分を高揚させてくれるからでしょう。
破滅への願望もあるかもしれない。破滅してしまえば、かっての栄光の幻影から自由になれる、という。
これとは違うけど、似たような事例が。
もうずいぶん昔の話だけれど。いい歳をしたおっさんが、車内で女子高生に痴漢行為をしてつかまった。このひと、TBSの重役に近々昇進することが決まってたひとで、こんなことが発覚したらすべてがパーになることは、分かりきったことなのに。女子高生のからだに触れることから得られる快感と、ようやく手に入れた栄誉と、秤にかけたらどっちが重いか、冷静になって考えれば分かるはずなのに。
彼はその時、冷静な判断力を失ってたわけじゃないと思う。そうではなくて、重役になるというプレッシャーに耐え切れなかったのだと思う。つまり、自分はその任ではないのではないかと思い、必ず自分は失敗して、遠からずその座を追われるはずだと思い、そんなことになるのなら、そうならない前に自分でそうしてしまおう、と思ったのではないか。
フロイトが<破壊衝動>みたいなことばを使って、こんなことを説明してましたが。
人間はほんとに変な動物だ。
彼の活動も彼自身についてもほとんど知らないし、なんの興味もないのだけれど、歌を作り、その歌を歌うのが好き、楽しい、ということが彼の出発点で、<売れる>などということは、それに付随するものに過ぎなかったのではないか。
原点に戻ればいいのに。
売れなくてもいいのではないか。一生働かなくても十分食えるだけのお金もあるのだから、多分。
横尾忠則じゃないけれど、隠居宣言でもして、好きなことだけやってればいいんですよ。
チヤホヤされたあの時代が忘れられない? でも、そのチヤホヤは自由と引き換えだったわけでしょ。
昔、黒木(和雄)さんがこんなことを言っていた。
曰く、業界の人間はほんとに判りやすいんですよ。人気がある時にはね、テレビ局なんか行くと、廊下の向こうの方から、ドーモドーモなんて言って手もみしながら飛んでくるんですけど、ちょっと仕事してない時期が続くと、その同じ廊下をね、同じ人間がですよ、わたしを見つけると、すっと脇に逸れてどっかへ行っちゃうんです。
寂しいと、自分に近づいてくる人間なら誰でもいいと思うのかもしれない。自分のまわりにいた人間が、ファンも含めて、次々といなくなったりすると、「クスリあるけど?」なんて近づいてきた人間が神様みたいに思えたのかしれない。
ひとの弱みにつけ込む悪いやつ、最低だな。

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