竹内銃一郎のキノG語録

もねちゃんと純子さま 「舞妓はレディ」を見る2014.09.18

今日は朝から燃えてしまった。ノルウェー産の映画「ヘッドハンター」に火を点けられてしまったのだ。とんでもなく面白い。
で、矢も盾も堪らず(?)、気になっていた「舞妓はレディ」を見に行く。
監督の周防さんの映画は、程度の差はあれど、みんな面白い。おまけに、今度はミュージカル、ならば見逃すわけにはいかない、というわけで。
さっき家に帰って来たのだが、いまだに興奮が納まらない。この映画の製作にわたしはなんにも関係ないのに(言うまでもない!)、映画がはじまってすぐ、これは他人事ではないゾと思い、通常ありえないようなドキドキ感が押し寄せてきて、それがいまだに。
ひとつには、わたしの芝居に何度か出てもらった小日向さんや中村久美さんと、スクリーンを通してだが、久しぶりにご対面出来て、懐かしい! という思いが募ったこと、さらには、あの純子さまも出演されているからだが、そう、純子さまの「緋牡丹博徒」のテーマ曲が映画ののっけから流れたのだ!
しかし、それよりなにより、田舎(鹿児島)から出てきて舞妓になるための修業に励む主役を演じた上白石萌音さんが、もう、なんと言ったらいいのか、文句なしに可愛い! ドキドキはここからやって来たのだ。
顔立ちがどうこうではなく、いやもちろん顔立ちも可愛いのだが、花街特有の礼儀作法、京都弁、踊り、鼓、三味線等々を教え込まれる際に、相手の台詞を聞いている彼女の真っ直ぐな眼差し、稽古に励むひたむきな姿勢が彼女自身と重なって、これはもちろん監督の狙いなのだろうが、特殊な世界を描いた色濃いファンタジーであるはずなのに(だってミュージカルだもの)、彼女の俳優としての成長の過程を描いたドキュメントとしか思えず、だからというのも妙な話だが、彼女がまるでわが子わが孫のように思えて、「春子(役名)がんばれがんばれ」と声援を送っているわたしがいたのだ。
本編の前に、これから公開される何本かの映画の予告編が流れ、そのどれもが判で押したように、「感動!」だの「優しさに包まれて」だの「幸福になれる」だのを連発し、いい加減うんざりしていたのだが、皮肉なことに(?)、出演者全員が仮装して上白石さん歌うテーマ曲に合わせて踊る、実に楽しい、楽しすぎるこの映画のラストシーンを見終わったときには、わたしは「優しさにつつまれ、感動し、幸せな気分に」ひたっていたのだった。
監督は、この映画の主役をきめるオーディションの際、彼女の歌声を聞いて、この子を使ってすぐにも撮影に入りたいと思ったらしいが、分かる、ほんとに素晴らしい歌声。陳腐を承知で書いてしまうが、ほんと、心が洗われるような天使の歌声なのだ。
凄いな、周防さんは。舞台となっている花街自体が、わたしたちの見慣れた風景とはかけ離れた世界だが、さらに、それを究極のフィクションともいうべきミュージカルで描くというのだから、当然、この映画にはいわゆる<アクチュアリティ>の欠片さえないはずだが、にもかかわらず。二重の過剰なフィクションのフレームが逆にそのフレームの存在を無化させ、上白石萌音という極上のヒロインを得たことで、映画的リアルを提示している。
しかし。まったく大きなお世話だが、彼女はこれからどうなるのだろう? これから以後、こんなに幸せな映画、こんな適役に出会えることがあるとは、思えないのだが ……。でも、純子さまの思えば …
置き屋の女将役を演じる純子さま。歳相応の顔のお皺がとてもいい。予告編で見たピカピカの顔で相変わらずの芝居をしている吉永小百合と大違い。上白石に自分の若い頃は …‥と思い出を語る長い台詞にものすごく説得力があり、そして、そのもの言いに、「緋牡丹博徒 花札勝負」の冒頭で彼女が仁義を切っていたあのもの言いとが重なって、ある種の感慨を覚えた。このひと、初々しさを残したまま腕をあげてる、えらいなあ、と。

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