竹内銃一郎のキノG語録

「チェーホフ流」解題1  「みず色の空、そら色の水」について2017.12.14

戯曲の冒頭のト書きは、以下のようになっている。

ひとりの夜。ユキコは体をふたつに折りたたむようにして、細かな手仕事。よく見れば、それは舞台装置の模型のようだ。

その細かな手仕事をしながら、彼女は自らに語りかけるように、静かに以下の台詞を。

大丈夫みんな、うまくいってよ。いいお天気ねえ、今日は。どうしてこう気持ちが晴れ晴れしているのか、あたし分からない。

さらにしばらく続く台詞は、「三人姉妹」の冒頭シーンで、末娘のイリーナが語る台詞である。ユキコの現在の年齢は60台後半。彼女は高校生の時、演劇部で舞台美術を担当していて、いま彼女の指先が触れてる舞台装置は、2年生の時、秋の大会の演目に予定していた「三人姉妹」のために彼女が作り、そして、自らの手で壊してしまったものだ。なぜそんなことを? それはここから始まる彼女の回想によって明らかにされるだろう。

「みず色の ~」は、東京乾電池の若手公演用に書いたもので、出演者22名(うち男性4名)はわたしの戯曲では最多である。20年ほど前までは、高校演劇や俳優養成所の卒業公演等でよく上演された、わたしのヒット商品のひとつだったのだが、もう長らく上演されていない。以前にも書いたが、演劇部にも養成所にも志望者が以前ほど集まらず、上演しようにも頭数が揃わないからだと推測している。

劇の内容に戻ろう。ユキコが、壊れた装置模型を修理しながら「三人姉妹」の台詞を呟いていると、かっての仲間たちがひとりふたりと現れて、ひとり住まいの孤独な日々を送る彼女を取り巻き、場所は山間の別荘へ、時間は50年前の夏へと遡る。彼らはそこで、秋の大会に備えて合宿をしている。朝。ウォーミングアップをしている者、台詞を暗唱している者、私語を交わしている者、等々。そこへ、顧問のモリオカ、演出担当の女子等が現れ、新しいキャスティングを発表する。ヴェルシーニン役を予定していた女子が合宿直前に退部してしまったため、急遽変更しなければならなくなったのだ。それに不満を唱える女子が泣き出して、ひと揉めふた揉め。

この作品にはモデルがある。これを書く半年ほど前だったか。わたしの戯曲を上演する某高校演劇部員から、稽古を見に来て下さいというので、その高校へ出かけたのだった。そして稽古終了後。春休みで、彼らは高校で合宿していて、一緒に夕食をと誘われ、学食での雑談の中で、あれこれ彼らから<使えるネタ>をいただいたのだ。競馬好きの女子高生がいるとか、演劇部員じゃないのにお手伝いでいつも部に顔を出している子がいるとか、たったひとりの男子部員はいつも女子部員たちのからかいの対象になっているとか、等々。楽しいひとときだった。あれから二十数年か。みんないまはアラフォー?!

この戯曲の登場人物は、演劇部員と顧問の教師だけではなく、顧問の知人である別荘の持ち主(女性)と、彼女の甥も登場する。大学の映研に所属している甥は、いま準備中の映画のヒロインを探しに別荘にやって来る。先のシーンの二日後の夜。彼が、目をつけた女子部員の、演技テストをしているところからシーン2は始まる。(次回に続く)

 

 

 

 

 

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