竹内銃一郎のキノG語録

笑える、泣ける、痺れる、「淋しいのはおまえだけじゃない」を全部見る。2019.01.20

「淋しいのは~」、全13話全部見る。但し、第7話は内容的に放映不能であるらしく、静止画による2分ほどのあらすじ紹介にまとめられていたが。前半の1~6話までは、もう笑える、泣ける、痺れる傑作の連続だったが、後半はやや下り坂に。前回書いたように、タイトルが出る前に、有名なお芝居の一部を2~3分で見せ、それから始まる物語は冒頭の<芝居>の内容に重なるように展開する、その超絶技巧の冴えが、後半はいささか色あせるのである。難しいんだな、やっぱり。もちろん、後半も面白さは十分で、「これからどうなる?」と物語の先行きへの好奇心が最後まで消えることはない。

「一本刀土俵入り」から始まって、「沓掛時次郎」、「雪の渡り鳥」、「瞼の母」と、長谷川伸の戯曲が、このドラマの核となっている。西田敏行は幼い頃に父を亡くし、母はよその男と駆け落ち。叔父のところに預けられたのだが、そこでの生活は苛めの連続で。叔父たちは、西田だけを家に残して、時々家族みんなで大衆演劇を見に行き、みんなが楽しそうに芝居の話を談笑しているのを見聞きしているうちに、自分もそれを見に行きたくなって、ひとりで、山を越え、劇場に出かける。劇場の外で看板を見ていると、女座長が出てきて、「ひとり? そんな遠くから来たの? お金はいらないから中に入りな」と言い、そして、「これあげるよ」と言って、ハーシーズの大型の板チョコをくれる。それは彼にとって忘れられない思い出となっている。

西田は事務所を構えているが、サラ金大手の下請け的仕事をしている取り立て屋で、ある日、財津一郎演じる、そこの陰のオーナーに、大型の取り立てを命じられる。それは、財津の愛人だった女性が、旅役者と駆け落ちし、その代償として2000万円の支払い(借金)を要求、その借用書にふたりの署名・押印を、というもの。西田は、梅沢富美男演じる旅役者が出ている、群馬の温泉街の芝居小屋に出かけ、ふたりに借用書を見せると、木の実ナナ演じる女性は、自分も旅役者の子供で、梅沢とは幼馴染、久しぶりに会ったら恋に落ち …という話の中に、彼女の母の劇団名が出て、西田は驚く。それは西田が子供の頃にハーシーズの板チョコを貰ったあの …。ここから「一本刀~」のなぞりが始まる。空腹=困窮にあえいでいた主人公・茂兵衛が、櫛・かんざしに財布まで与えてくれた救いの手=酌婦に、10年の時を経て、体を張って恩返しをしたように、西田もあの女座長の娘に恩返しをしようと決意して …。西田の嘘八百が功を奏して …と思ったが、そうは問屋がおろさず。ここからめぐりめぐって、借金2千万円也の毎月の利子、130万円ほどを返すため、木の実ナナを座長とする劇団を作り、劇団員として、西田の<お客>たちを招き入れ …という具合に物語は進んでいく。西田の客とはもちろん、彼に支払いを請求されているひと達。職業は様々だが、みな社会の敗北者で、孤立を強いられている<淋しい>ひとたちなのだ。その<淋しさ>が、役者になるという暴挙を彼らに選択させるのである。ここらへんの設定がたまらなくいい。(この稿、続く)

 

 

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