竹内銃一郎のキノG語録

季節はめぐる?2019.01.28

久しぶりの思わぬ再会がまだ続いている。先週金曜の朝、「ちょっとちょっと」と奥さんが呼ぶので、居間に行くと、「埼玉の芝居に出てたひとが …」とTVを指さす。見ると、NHKのアナウンサーになっている森田くんが、「あさイチ」に出てるではないか。彼がわたしの芝居に出たのは20年ほど前。大学卒業後も芝居を続けたいという彼に、無理だからアナウンサーにでもなれば? と言うわたしの勧めに従って(彼はそれを否定する)NHKに見事合格。わたしの知っている限りでは、長崎にいた時に「平和祈念式典」の実況中継を担当、それから大阪に移った時には、何度かDRY BONESの公演に来てくれて、そうだ、大学に遊びに来たことも。東京に移ったことは聞いていたが、まさか「あさイチ」のレギュラーになっていたとは。次は翌日の土曜の夜、風呂からあがって居間に行くと、奥さんが「フランス人の好きな美術館」(?)というようなタイトルのTV番組を見ていて、そこに、これまた、さいたま芸術劇場で上演した「21世紀グリムシリーズ」の3本ほどに出てくれた志甫さんが、美術館に訪問して館員にあれこれ聞いているではないか。彼女がまさかこんな仕事を、と驚く。そしてその夜。これまた<さいたま関連>のスギタさんから、明日放映される「サザエさん」のシナリオを書いたから見てほしい、というメールが。彼女は、さいたま芸術劇場のこけら落としに上演した「ハロー、グッバイ」に出ていた。大学卒業後、大学の仲間達と劇団を作って作・演出を担当。その後、TVのシナリオを書くようになったのだ。「ハロー、グッバイ」を上演したのは1995年だから、もうあれから20年以上になるが、まるで数年前のことのよう。わたしはこれまで100本近い現場にたずさわってきたが、この作品作りに関わった半年ほど楽しい時間はなかった気がする。

そんなわけで。生まれて初めて「サザエさん」を見たのだが、そのあまりの出来栄えに驚く。別にひいき目ではなく、3本立ての中で見るに堪えうるのは、スギタさんのものだけだったのだ。一本目は、クラスメートの女の子の白菜の漬物作りをカツオが手助けするという、ただそれだけの話で、二本目は、いつも元気な花沢さんが風邪をひき、それをサザエさんが「鬼の霍乱だ」というのを聞いて、タラちゃんがその言葉を相手構わず連発するという、これまたそれだけの話。クスリとも出来ない、呆れて腹も立たない凡作だが、スギタさんに聞くと、二本とも「サザエさん」の常連ライターのベテランの作というから、さらに驚く。こんなものが長く、それなりの視聴率を保っているとは! 世の中(の皆さん)いったいどうなってんだ?!

ああ、前置きが長くなってしまった。ホントは近松の「虚実皮膜論」を軸に、昨日見たコーエン兄弟の「ファーゴ」と重ねて「淋しいのは~」について書くつもりだったのだが …。

前述の3人、初めて会った時はいずれも、20歳前後。先に森田くんが大学に遊びに来てくれたと書いたが、スギタさんも、一度だけだが、わざわざ東京からわたしの講義を受けるために大阪まで来てくれたし、志甫さんも、俳優である旦那さんの京都公演時には、子供連れでやって来て、その都度、わたしと食事する。みんな40過ぎても(?)、昔と変わらない距離感でわたしと付き合ってくれる、それがまるで時計の針が逆回転しているかのようで、なんともありがたいのだ。

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