竹内銃一郎のキノG語録

非情の世界 成瀬巳喜男の「おかあさん」を見る2011.05.10

ドラボ映画鑑賞会で成瀬巳喜男「おかあさん」上映。わたしは数年ぶりのご対面。びっくりするほどにシンプル。
描かれている事柄、例えば、日々の暮らしぶりもシンプルなら、描き方もシンプル、というより、チェーホフの世界を評するときに、昔はよく使われた「非情」ということばが当たっているかも。
非情。情緒的なものから遠い世界。肉親の死、親子の別れ等々、普通なら涙なくしては語れないシーンと、子供がおねしょをしてしまった等の他愛ないエピソードとが、等価・等量なものとして並置される。凄い。
あの小津安二郎だって、「東京物語」や「小早川家の秋」などでは、「死」をもう少し重いものとして描いていたのに。
非情に徹するというのはなかなか出来ないことで。震災以後はとりわけ、メディアにおける情緒垂れ流しは目に余るものがあり、ニュース取材などでの被災者に向けられる「ねぎらいのことば」のほとんどは、上から目線であることに当事者たちはどれほど気づいているのか。情緒ズブズブと上から目線がダブルでやってくるから、わたしが被災者なら間違いなくキレてるだろう。
等々を重ね合わせると、繰り返しになるが、成瀬の「非情の世界」がことさらにすがすがしく思われたのである。

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