竹内銃一郎のキノG語録

闘う女たち 映画「先生を流産させる会」と「地上の星」の凄み2013.04.30

週末、久しぶりに東京に帰って競馬三昧。が。土曜日の青葉賞、わがPOG持ち馬のレッドレイブン、期待を裏切り一番人気で惨敗。日曜日の天皇賞。フェノーメノはゆるぎない本命馬と見て、馬券はこの馬から買ったが、まさかゴールドシップが3着を外すとは! そう、3着でよかったんですよ、そしたらしこたま儲かったのにィ。
土曜日の夜。WOWOWで「ヘルタースケルター」を見る。想像以上のひどさ。なんといったらいいのだろう、映画になってないのだ。まるでスチール写真を並べたみたい。時間が流れてるって感じがまったくしない。若い頃、どういう話の流れだったのか、大和屋さんの奥さんが「下手な監督って、ひき絵がとれないのよ」と言っていたが、確かにひき絵がなかったような気がする。あったとしてもまったく印象にないのだから、なかったと同じだ。
俳優たちも、どこか投げやりな感じで。原作者の岡崎京子が草葉の陰で泣いてるぜ、ほんとに。
逆にこれが映画だと思わせたのが、続いて放映された「先生を流産させる会」だ。実際に起こった事件をモデルにしたらしいが、さっきネットで確認したら、なんとわたしの生まれた町でそれは起きたのだと知り、ビックリ。
それはそれとして。いつものように映画のストーリーは明らかにしないが、俳優たちの面つきが前述の映画とはまったく違う。とりわけ、女子中学生5人組に流産させられる先生役を演じた宮田亜紀の目つきが凄い。怖い。闘う女! こんな女優さんがいるんだあ。ネットで調べたら、これまた奇遇で(?)、ずいぶん昔に大和屋さん宅で何度か会い、わたしの芝居にも来てくれていた西山洋市さんや、高橋洋さんらの映画に出演しているらしい。でも、どこで生まれていま幾つ? 等々は明らかにされてない。気になるぞ、竹内は。
まるで「エイリアン」のヒロイン、シガニー・ウィバーみたい。それは、映画自体が「エイリアン」を思わせたせいかも知れないけれど。女子中学生5人組もいい。みんな素人らしく、正直、揃ってブサイクなのがいかにも田舎の中学生といった感じでとてもよろしい。リーダー役を演じた女の子が、これまた闘う女の顔つき目つきでとてもいい。
監督の内藤というひとは30歳くらいの若いひと。確かに、話は怖いけど、瑞々しい映画。ひき絵もばっちり。
内容が似てなくもない「告白」とも対極にある。シャボン玉を吹かせたり、スローモーションにしたり、そういうアホなことは一切しない。この潔さに感服。
あ、ひとつ思い出した。アンゲロプロスが「霧の中の風景」を撮るとき、主役の子供たちを決してフォトジェニックには撮るまいと決めていたという話を。そう、「ヘルタースケルター」は、なんでもかんでもフォトジェニックに撮ってしまうから、映画にならないのだ。
日曜。天皇賞で負けたので、まだ最終レースが残っていたけれど、ここはひき時と自らに言い聞かせ、16時、チャンネルをグリーンチャンネルからWOWOWに切り替える。中島みゆきのコンサートが放映されたのだ。
といっても、7年前のものだけど。久しぶりに見えるみゆきさん。頑張ってる。なんでそんなに? と思うほど、見てるこちらが辛くなるほどに。なんか、頑張らなくていいからみたいな、そんな優しいメッセージが肯定されているこの時代に!
アンコール曲の「地上の星」が凄かった。浪花節語りみたいなダミ声を交え、吼えてる、と思ったら、間奏が入ったそのあとは一転、可愛い少女みたいになって歌ったのだが、その切り替わりの時に、なにを思ったのか、キッとカメラを見据えた顔つき目つきの鋭さといったら!
通常TVに映る顔は、それこそ岩松さんの「月光のつつしみ」の中の台詞を使えば、「自分の後ろには、一億人がいる」みたいな面つきだ。イケシャーシャーって言うんですか? わたしは皆さんの味方ですみたいな、皆さんもわたし(の意見)に賛同してくれてるんですよね、みたいな臆面のない顔を曝け出してるのに、先の宮田亜紀といい、みゆきさんといい。わたしはすっかり敬服してしまったのだ。

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