竹内銃一郎のキノG語録

イチローと千日でも待つ女、お通2013.08.23

イチローは凄いな。ヒットを4千本打ったからとかそういうことではなく、今朝のスポーツ報知に載ってた彼のコメントに感動してしまった。ま、いつものイチロー語録の集大成みたいなものなのだけれど。
インタヴュアーは大体馬鹿で、答えようのない質問か、答えを想定した上での質問しかしない。
昨日の甲子園の優勝決定後のインタヴューもまさにそれで、ピッチャーの高橋に、「甲子園と言う場所はどういう場所でしたか?」みたいな。「最高の場所でした」みたいにしか答えようがないし、そういうことを言わせるための質問なのだ。
イチローはいつものことながら、その手の質問にはまともに対応しない。「いまは満足か」という質問は、おそらく「満足してしまったら人間終わりでしょ」と言わせるためのはずだが、イチローはそんなチンケなことは言わない。質問者の期待・想定から外れる。「自分はいつも満足してる。ほんの小さなことにも満足する。満足したらそこで終わってしまうというのは弱いひと。満足が次のステップアップを用意してくれる」なんて答える。
いかにヒットを打つかが彼にとって問題ではなく、野球を自分の生き方に重ねて考えてるところが凄い。こんな宮本武蔵みたいなヤツ、今時ほかにいないでしょ。わたしなんか60過ぎてるのに、来年3月の定年後の生き方はどうしようなんて考えてる情けなさ。ま、これがフツーだと思いますが。
どーでもいいけど、イチローをイチと呼ぶのは失礼じゃないか、外人ならともかく。
宮本武蔵の名を先に出したのは、内田吐夢監督、中村錦之助主演の「宮本武蔵」を久しぶりに見て、感銘を受けたからだ。NHKのBSで7月に全5本連続放映していて、それを録画しておいたのをこの休みに見たのだ(が、何故か最終巻が録画されておらず!)。
学生時に、オールナイトで全部見たはずだが、例の如く、ほとんど覚えていなかった。わずかに、有名な「一乗寺の決闘」のラストの泥田での決闘シーンくらいしか。
え、そういうことなの? とかなり驚いたのが、お通という女性のキャラクター。多分、この話を知っている大方のひと、とりわけ女性などは、ただただ男(武蔵)を待ち続けるだけのしょうもない女、という理解をしているはずで、ま、かくいうわたしもずっとそう思っていたが、全作(じゃないけど)を通して見ると、彼女の待ちかたは尋常ではないことに気づく。武蔵との別れ際、「あなたのことは100日でも1000日でも待ち続けます」といって、本当に再会を約束した場所で1000日待ち続けるのだ。これほど情熱的で積極的な生き方があろうか。でもでも、武蔵は、「愛と剣、両方を選ぶことはできない」みたいなことを言って、彼女の前から再びいなくなる、と。うーん。イチローがあんな色気のかけらもない女を奥さんに選んだのも、こういうことじゃないのかな?
登場人物も多彩で、なおかつ、俳優がいずれも適役。名前はなんといったか、槍で名高い宝蔵院流の大先生みたいな役をやる月形龍之介。いつもながら凄い。ほんとにそういうひとなんじゃないの? なんて素人みたいな感想を持ってしまうくらいのリアリティ。
高倉健が佐々木小次郎。オールナイトで見た時は、わたしも他の大半の観客も彼が登場した途端、みんな大爆笑したが。それは、健さんといえば短髪で着流しというイメージだったからで、長髪にキンキラキンの派手な衣装で出てきたものだから、なんじゃ、それ! ということだったのだ。でも、いま見ればさほどの違和感もなく、大柄だから背中に刺した長剣も様になっており、殺気さえ見せず吉岡清十郎の片腕を切り落とすところなど、声を失うほどの凄み。
武蔵を追い掛け回す婆(友人の又八の母)の浪花千栄子もこれ以上の適役はいないはず。ひと回り以上年が離れていそうな又八を腑抜け野郎にしてしまう小暮八千代も、いつもながらのいやらしさで文句なし。
これがデヴュー作となるお通役の入江若葉さん。ほんとに初々しくて、一点の汚れもなさそうで、こういう女性なら1000日でも2000日でも待つかもしれない、という説得力がある。
一度だけ、もう20年以上前になると思うけれど、入江さんにお会いしたことがあって、多分その時は40を幾つか超えていたはずだけれど、いい家のお嬢さんみたいな、ほんとにいい感じのひとでした。でも、哀しいかな、いいひと過ぎるひとは女優さんには向いてないんですね、ひとを平気で蹴落とすくらいじゃないと。
長くなったので、この「2」の話はまた明日。

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