竹内銃一郎のキノG語録

花とげんこつ2016.02.01

もう二月! 歳をとると時間が早く過ぎる。これは妄想なのか。わたしの見るもの・聞くもの・読むものすべてが、なにかひとつながりになっているかのように思える。

昨日、大阪女子マラソンで優勝した福士加代子の出身地が青森の板柳町であることを知って、あっと思う。この町は、あの永山則夫の母親の実家があった町で、彼も中学までここに住んでいたのだ。なぜ、あっと思ったのかと言えば、昨日読み終えた「現代思想 見田宗介=真木悠介 未来の社会学のために」で、見田=真木が、『まなざしの地獄』という永山に関する本を書いていることを知り、Amazonで注文しようかと思っていたからだ。

一週間ほど前に日本映画チャンネルで見た「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」について書こう。2012年に公開されたドキュメンタリー映画だ。タイトルにあるように、90歳にしてなお現役である福島菊次郎そのひとと、彼が撮った数多の写真とで構成されている。彼が撮り続けた写真は、広島の原爆被災者、自衛隊、三里塚、瀬戸内海に浮かぶ祝島の反原発闘争、福島等々、国家権力に圧殺された人々に焦点をあて、「ニッポンの嘘」を暴き、告発するものだ。胃の三分の二を切り取っているほかにも数多の重病を抱え、おそらく右翼であろう輩に切り付けられ、家に放火され、にもかかわらず敢然と大きな力に抗してシャッターを押し続ける。普段はよろよろと足元も覚束ないのだが、カメラを構えるとバシッと決まってカッコいい。この種のひとを「硬骨漢」と呼んだりするが、わたしは「拳骨漢」だと思った。そしてふっと、昔懐かしい「花と小父さん」という歌を思い出す。なぜだか分からない。

加藤典洋の『戦後入門』も読み終える。文庫本で600頁余ある力作。分量が分量だけに、わたしの力ではとても要約など出来ないが、これまで知らずにいたことが数々書かれてあり。例えば、敗戦から以後、この国はずっと米軍に占領され続けているが、そもそも占領軍とは連合国の軍隊であったはずが、なぜか占領軍=米軍になってしまったこと、そして、サンフランシスコ講和条約には、条約発効から90日以内に占領軍は日本から撤収すると記されていたにもかかわらず …、あるいは、不可能に思われている米軍基地撤廃も、フィリピンはそれに成功している、等々。まことに、「日本の誇り」を謳う一方で、さらなる日米安保の強化=米国の従属化を目指す現政権は、明らかに矛盾している。

因みに、前述した「花と小父さん」はこんな歌詞から始まる。

小さな花に 口づけをしたら 小さな声で 僕に言っ たよ 小父さんあなたは やさしい人ね 私を摘んで お家に連れてって

ものすごく切ない歌。

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