竹内銃一郎のキノG語録

これは面白い。 「職業外伝」(秋山真志 著)読了。2020.01.06

昨日はJRA本年開催初日。仲間4人でやっているPOGのドラフトで、わたしが5番目に指名したアドマイヤベネラが新馬戦に出走。パドックでは他馬を圧倒する見事な馬体をご披露、負けるわけがないと思ったら、最後の直線で馬群から抜け出せず3着。クー。このありえない敗戦から始まって、馬券はひとつとして当たらず。3日前からうちの奥さんが風邪で寝たっきり、という暗い出来事も手伝って、わたしの気分はどんより雨模様となったが、挫けてなるかと、今日も昼過ぎからTVの競馬中継を見ながらの馬券買い。結果、終盤に三つ的中、ヨシヨシ。二日分の収支はマイナスだが、今日に限ればプラス。奥さんのお体の具合もどうやら持ち直した風、まあ、一勝一敗で今年の競馬戦線で始まった、ということにしておこう。よかったよかった。

どんより雨模様になったわたしの気分を持ち上げてくれたのは、もしかしたら、昨日の夜読んだ、「職業外伝」かも知れない。この本については二ヶ月ほど前、簡単に触れているが。本書で取り上げられている「職業」は、著者が「あとがき」に書いている言葉に従えば、「絶滅危惧種」ともいうべきもので、そんな仕事に就かれている貴重な方々への取材・インタヴューと、その<職業>に関する資料からの引用、そして、著者がその<職業>を取り上げた理由を語りながらの<著者の自己史>とで構成されている。取り上げられている職業を以下に。

飴細工師 俗曲師 銭湯絵師 へび屋 街頭紙芝居師 野州麻紙神漉人 幇間 彫師 能装束師 席亭 見世物師 (番外編)真剣師

俗曲師というのは、長唄、小唄、端唄等の邦楽を三味線を弾きながら唄うひと。へび屋は、マムシの蒸し焼き、赤とんぼの黒焼き等の小動物(?)を原料とする漢方薬を扱う店。野州麻紙神漉人(やしゅうましかみすきにん)の野州は現在の栃木県(の一部)で、大麻(!)を使って作る和紙製造人。幇間は太鼓持ち。彫師は刺青(タトゥではなく)を彫るひと。席亭は寄席の経営者。真剣師は賭け将棋を職業とするひと。そして、見世物師とは …

最初に取り上げている飴細工師の坂入尚文というひとのインタヴューの受け答えが、「寅さんみたいなテキ屋はいない」という言葉にも見られるように、ひどくクールで面白く、その勢いで次々と読み進めていったのだが、途中からイマイチが続き。正直、それは著者の自己史のご披露に付き合いきれなくなったからだったのだが、一ヶ月以上の間をおいて読んだ「見世物師」に度肝を抜かれて。見世物師とは、見世物小屋の代表・経営者のことで、見世物小屋とは、芝居を上演する劇場や落語や漫才を見せる寄席などとは違って、もっとエゲツない、市民社会の<常識>の枠から大きく外れた芸を見せる小屋のこと。それはどんな芸なのかというと、

お峰太夫がしまへびを頭から口に含むと、食いちぎった。ジャリジャリとした音が聞こえる。場内に悲鳴が上がった。お峰太夫は客席にへびを投げつけた。みんな一瞬、大パニックである。司会者が「これはビニールだから大丈夫ですよ(中略)」と軽くたしなめると、お峰太夫はまた、しまへびをむしゃむしゃと食べはじめた。(中略)「悪食の実験」が終わると、司会者はお峰さんに火のついたろうそくを渡す。並みのろうそくじゃない。二、三十本束ねてある。缶ピース二缶ぐらいの大きさはあろうか。「さあ、お客さん、(中略)下を見てご覧なさい。何かが飛び散っているでしょう。ろうそくのろうです。(中略)」客がザワザワしはじめた。お峰太夫はその何十本もの火のついたろうそくのろうを、口に流し込んでいる。(中略)「さあ、皆さん、危ないよ。一瞬の火吹き芸です」ろうそくの束に向かってお峰太夫が何かを吹きつけると、口から火炎放射器のように火が広がった。それは恐ろしく大きな火柱だった。長さでいえば、三メートルぐらいはあったろうか。場内はやんやの拍手喝采。お峰太夫へのブラボーコールが飛び交った。(以上は書かれた文章の一部)

どうです? 凄くないですか? ま、わたしは怖がりだからとても正視は出来ませんが。この本が刊行されたのは2005年で、取材は当然その2,3年前のはず。ということは、もうかれこれ20年の月日が流れているのだから、この本で取り上げられている職業、そして取材を受けてるひとの多くは無くなったり、亡くなったりしてるはず。ITだのAIだのが席巻している現在の世の中のことを併せ考えると、まことに切なく …

 

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