竹内銃一郎のキノG語録

もしも、転ばぬ先の杖が折れたら …?2020.03.10

決断を迫られている。6月初旬に予定していた公演を中止・延期するのか、あるいは、予定通りにやるべきかどうかを。理由・原因はもちろん、コロナウイルス感染である。中国・武漢での発生・感染が伝えられた当初は、またネタに困ったマスコミが安易に飛びつきやがってと思っていた。そう、かの「日大アメフト」や「アマ・ボク協会」「アマ・レス協会」等のパワハラ事件と同様、視聴率アップを狙ってのバカ騒ぎに違いないと、ムカついてもいたのだ、それが。

うろたえてしまったのは、大阪のライブハウスに集まった観客の中に「感染無自覚者」がいて、全国各地から集まった他の観客に感染、その被感染者たちが自らの地元に帰ってさらに感染を拡大し …というニュースを知った時である。しかし、その時はまだ、4月になればいまの勢いは収まり、そうなれば、6月の公演は無事に …と思っていたのだ。それが! 今朝の「羽鳥慎一モーニングショー」であの玉川氏が、何年か前の新インフルエンザの患者は、日本国内だけで1千万人いたから、今回はその数倍に達するかも、なんて言うのを聞いてさらにうろたえて。

先週、伏見桃山の居酒屋で水上(近大卒業生)から、野田(秀樹)くんが自身のHPで「スポーツや文化イベントの延期や中止を要請した政府」に異を唱え、それに非難ごうごう、ツイッターで炎上したことを聞き、家に帰ってネットでそれを読む。非難の大半は、「演劇は観客がいて初めて成り立つ芸術です。スポーツイベントのように無観客で成り立つわけではありません。」という箇所に、「演劇はそんなに特別か? スポーツだって観客なしではありえんのじゃ、アホ!」というもので、これはどうにも<浅はかに過ぎる>非難だが、一方で、平田(オリザ)くんを始めとする演劇人たちは、野田くんの「ひとたび劇場を閉鎖した場合、再開が困難になるおそれがあり、それは「演劇の死」を意味しかねません。」という考えに賛同し、感染被害を避けるためにアレコレ手を尽くせば …と言うのだが、これまたわたしには、<ピントを外した賛同>に思われて。「演劇は応援を行うスポーツ観戦や、ファンの飛沫が飛び交う音楽ライブではありません。俳優からの飛沫感染の可能性がある演目は最前列三から五列を無観客とするといった上演方法も …」というのは平田くんの意見だが、前述したように、大阪のライブハウスでの感染は、観客の誰かが他に感染させたわけでしょ。舞台から客席を遠ざければ、感染が<完璧に>避けられるわけはなく、更には、あえて書いてしまうが、客席の位置に関係なく成立する舞台なんて、わたしは見たくもない。

このブログにはこれまで繰り返し書いていることだが、わたしは気恥ずかしいほどの健康体である。小学校に入って以降、現在まで、病気らしい病気にかかったことはないのだ。中学生の時と、30~40代に二度、腰痛で病院に行ったくらいで、風邪さえ何年かに一度かかるかかからないか、かかっても2、3日寝ていればそれで治ってしまうのだ。そうだ、40代の時に花粉症で鼻づまりになり、眠れない夜を一ヶ月ほど過ごしたことがあったが、今はもう、時々くしゃみが止まらなくなったり、目がしょぼしょぼする以外に花粉症被害もない。だから、自分がコロナに感染するなんてこれっぽちも思っちゃいないが、だからこそ、わたし(たち)の芝居を見に来たひとが感染し、輪を広げ …なんて想像すると、怖くて堪らないのだ。

プロ野球が予定していた開幕時期を4月まで延期することや、Jリーグも同じく4月に再開するらしいことを知らされると、だったら6月公演は予定通り出来るかも? と思ったりもするのだが …。上記からも明らかなように、わたしは並外れた怖がりである。このことと関係があるのかないのか、常に「最悪の事態」を想定するのだ。5月になっても事態は現在よりもさらにさらによろしくない方向に向かっているのではないかとか、逆に、6月公演は来年に延期してと決めたら、5月にはもう感染の<カの字>も消えてなくなって …とか。つまり、転ばぬ先の杖が折れないとも限らない、ということである。

今日、ああ、もう昨日になっているが、公演に参加する出演者・スタッフ全員に、公演延期の是非を問うメールを送った。皆の意見を踏まえて決断するつもりだ。

一覧