竹内銃一郎のキノG語録

「乾燥肌のチェーホフ(仮題)」プロット2012.04.26

公演が終わったばかりだが、もう次回作にとりかからねばならない。次は10月。指折り数えると、あまり悠長に構えてはいられない。
とりあえずタイトルは、「すちーむ愛論」。美容整形とクリーニング屋の話。なぜこんなことを思いついたか?
それがよく分からないから笑ってしまう。
あえて自分の中を覗いてみると。
橋本治の「恋愛論」はいいな、というのがあったのではないか。そこから「愛論」という単語を思いつき、アイロンだからクリーニング屋かな、と。アイロンで殴るというのも閃いたけど、芝居じゃ危ない。
整形は? 前に「オカリナ」を構想してたとき、先ごろ死刑が求刑された木嶋香苗女史とイギリス人の英語教師を殺害して逃げていた市橋某が、同じ美容整形の病院に行ってたらしいというのが面白くて、これで芝居が描けないかと思っていて、そこから来たのだろう。
しかし、実際はどうなるか。まだ雲を掴むような段階なので …
去年の12月だったか、あるひとに戯曲のプロットを要請され、書いて渡したのだが、劇団内の選考に洩れてしまったという連絡が先月の末にあり。
竹内さんらしくない、という感想が選考したひとから聞いたとか。
まただよ。教えてほしい、竹内らしいものとはどういうものか、ほんとにあんたはその<竹内らしいもの>を求めているのかを。
以下がその<竹内らしくない>戯曲のプロットです。
乾燥肌のチェーホフ(仮題)
作 竹内銃一郎
【登場人物】
国枝 巧  ……「茶烏賊の会」主宰者。70代。造園会社社長。友人の妻だった多恵子と結婚するもいろいろあって離婚。現在は独身。「ワーニャ」のセレブリャーコフを演じる。
海江田 努 ……「茶烏賊の会」元メンバー。フリーの俳優。普段は友人の通販会社で働いている。妻子あり。今回は20年ぶりの参加。50代。ワーニャを演じる。
谷口喜直  ……「茶烏賊の会」演出家。50代。テレーギンを演じる。
国枝の会社に勤務。独身。
金城 隼人  ……「茶烏賊の会」メンバー。30代。アーストロフを演じる。
世界史担当の高校教師。独身。
杉本 純平  ……「茶烏賊の会」には今回初参加。20代。演出助手等雑務担当。 多恵子の夫が経営する工務店でバイト。大学中退。漫画家志望。下男を演じる。
松山多恵子 ……「茶烏賊の会」の創立メンバー。専業主婦。籠目、国枝と結婚・離婚し、今の夫は3人目。籠目との間に一男一女あり。マリア(ワーニャの母)を演じる。60代。
芦原舞子  ……「茶烏賊の会」メンバー。40代。歯科医師(家業)。バツイチ。現在は独身。マリーナ(乳母)を演じる。
石子 巽  ……「茶烏賊の会」の元メンバー。今回は5年ぶりの参加。30代。声優。普段はスナックでバイト。独身。エレーナを演じる。
中川冬実  ……「茶烏賊の会」には一年前に入会。20代。金城の教え子。3ヶ月ほど前からバイトで国枝の家の家事手伝いをしている。ソーニャを演じる。
【物語】
「茶烏賊の会」は、チェーホフ作品上演を目的として、某大手劇団を退団した国枝と、チェーホフの研究者で多恵子の夫だった故・籠目陸夫とが中心となって創立した劇団である。多恵子、国枝が所属していた劇団の研究生だった海江田、谷口も創立メンバーの一員。
劇団は、今年から創立30年になる来年にかけて、チェーホフの俗に言う「四大劇」の連続上演を企画。
物語は、その第一弾である「ワーニャ伯父さん」の上演をめぐって、劇団内で持ち上がる<様々な問題>と、それが解きほぐされる過程で明らかになる<複雑な恋愛>が、「ワーニャ伯父さん」の内容をダブらせ、更に、アポリネールの傑作短編小説「詩人のナプキン」の奇妙なテーストを借りつつ、時に哄笑を交えながら切々と綴られる。
<複雑な恋愛模様>とは?
①海江田は、かって国枝の妻であった多恵子と関係を持ち、それが原因で国枝と多恵子は離婚し、海江田は劇団を去る。
②谷口と巽はかって恋愛関係にあったが、巽は他の男のもとに走り、谷口は捨てられる。
③冬実は金城を慕っているが、金城は巽を追いかけている。
④舞子は谷口のことが好きなのだが、谷口は巽を忘れられない。
⑤しかし、金城も谷口も巽の眼中にない。
⑥国枝は、年甲斐もなく、冬実に告白をする。
(杉本は、人間の女性に興味がない)

舞台は、国枝の住まいの一部を改造した劇団の稽古場。全4場。
①再会
夏の終わりの昼下がり。稽古が始まって3日目。種々の事情で稽古参加が遅れていた金城と巽が、この日初めて顔を出し、表面的には和やかに旧交を温めあうが、そこかしこでギクシャクした人間関係が顔を出す。
②深夜の酒宴
それから10日ほどが過ぎ。稽古後、稽古場でみんなで酒を飲むことになる。
酩酊の度が増す中で、巽がこの稽古場に通うようになってから、妙に体が痒いのだがと言うと、海江田、多恵子、金城も実はわたちも俺も言い出す。谷口が、酔いにまかせて巽に縒りを戻そうと迫ったり ……
家に帰る者、酔いつぶれてしまう者 ……。冬実は杉本に、金城への切ない思いを洩らす。
③決裂
それから1ヶ月ほど後の昼下がり。国枝は、舞子が降板を申し出ていることを皆に伝える。当然のように場は紛糾。とりわけ谷口は荒れ狂い、メンバーの誰彼構わず、激しく糾弾する。それに呼応するように、皆口々に自らの不満を他にぶつける。が、皆、からだのそこかしこが痒くてたまらず、当人たちの荒ぶる気持ちとは裏腹に、なんとも珍妙なやりとりが繰り広げられる。
④告白
同じ日の夕方。一人去り、二人去り、国枝と冬実だけになる。冬実が、公演は中止になるのか、劇団は解散するのかと尋ねると、国枝は、中止も解散もしないと断言し、「ワーニャ伯父さん」の最後の場面を稽古しようと言って、こんな風にやるのだと、冬実が演じることになっているソーニャを自らが演じて見せる。
終わり

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