あまりの幸福感に思わず涙が ……ケン・ローチの『エリックを探して』を見る2012.06.22
先週末、来年のダービーをめざしてのPOGドラフト開催。
今年のダービーは、新会員のAさんの持ち馬がなんと1着3着! またしても竹内大敗の巻だったわけですが(でも、馬券は取ったゾ)。そのAさんと初めてのご対面。
わたし達のPOGは、わたしとわたしの劇団にいたIと始めたのだった。発足以来20年余。3人になり、4人に増えたかと思ったら、1人減り2人減り。10年ほどはIとふたりでしみじみやっていたのだが、一昨年からIの仕事の取引先のひとSさん(推定年齢38歳 二枚目なのに独身)が会員になり、そして去年からSさんの会社の同僚のお父さんであるAさんが加わったのである。
聞けば、Aさんはわたしより2歳年下だが、競馬歴はわたしより数年長いという剛の者。めでたくドラフト終了後、一同寿司屋へ。もちろんAさんの奢りだ。ドラフト開始から、じゃこれでと別れるまで約5時間。ここでも繰り返し書いてきたように、わたしはいい歳をして人見知りなので、初対面のひととこんなに長く一緒にいられたことすら奇跡に近いことだが、驚くべきことは近年あまり味わったことのない幸福感に満たされていたことだ。
考えてみれば、もう何十年も、仕事に直接関係のないひととこのように親しく話をしたことがない。なんの緊張感もなく、競馬オヤジ、競馬アンちゃんたちと、まさにユルユル状態で過ごした5時間の幸せ ……。
なにもかもがうまくいかない中年男の自動車事故から物語は始まる。
病院のベッドで目覚めるが、仕事があると包帯のままベッドから抜け出す。彼は郵便配達員だ。かってはまるでサッカーの一流プレイヤーそこのけのフットワークで郵便物の仕分けをしていたのに、今はあのざまだ。と彼のノロマな仕事ぶりを嘆く同僚たち。あいつを昔のようにするためにはどうしたらいい? 心優しい仲間たちはあれこれ手を尽くすがなかなかうまくいかない。彼はすべてに自信をなくしているのだ。
本の万引きを常習としている仲間のひとりが、なくした自信を取り戻すには、自分が愛してやまない相手から自分は愛されていると思い込めばいいのだ、と万引きした心理学関係の本の一節を引用し、語る。
男に尋ねると、自分の人生でもっとも敬愛し、そして愛されたいと思っているのは、サッカーの名選手エリック・カントナだと答える。
この映画にわたしは深く感動し、念のためにとネットで調べてみると、なんと映画の中でカントナを演じているのは本物のカントナだとあって、驚いたのなんの! だって見事な役者っぷり。
男の部屋にはカントナの大きなポスターが貼ってあり、映画の中で幾度もカントナのゴールシーンが映し出され、その時点ではカントナ役は俳優だと思い込んでいたから、ニセモノ(?)のカントナが蹴ってるのと本物のゲームをミックスしてるのか、凄い編集だなと感心していたのだった。
男にはふたりの息子がいて、そのうちのひとりの肌の色は黒い。再婚した奥さんの連れ子だという台詞があったが、ふたりともそうなのか、どっちかひとりがそうなのか、その説明はない(多分)。いずれにせよ、揃って出来が悪く、男の言うことは聞かず、不良仲間とつき合ってもいるらしい。おまけに、奥さんは男と子供を捨ててどこかへ行ってしまったらしい。
男の最初の奥さんは、近所に住んでいるらしいのだが、ほとんど会ってはいない。ふたりの間には近々大学を卒業するらしい、シングルマザーになってる、優秀な娘がいて、彼女が両親のよりを戻そうとあれこれ手を尽くすが、女の方が男を許しておらず、これもまた男が抱える不安のタネとなっている。
何もかもがうまく行かない。男が途方に暮れていると、きまってカントナが現れる。そして男に、いまはどうすべきかを、サッカーの戦術を例に引いてアドバイスをする。
男を絶望の淵に立たせるような事件が起こる(具体的には書かない)。カントナがアドバイスを送る。そして男の仕事仲間の男たちが、男のために立ち上がる。
マキノ雅弘の痛快娯楽映画のラストを彷彿とさせる、笑えて泣ける感動の立ち回り(?)。
誰が言ったか、世の傑作・名作と呼ばれた作品は、古今東西、ジャンルの別なく、この世はいかに地獄であるかを描いたものだ、と。確かに。シェイクスピアだって、喜劇より悲劇の方が評価は高い。わたしにしてからが、例えば、2,3週間前に見た川島雄三の「貸間あり」。大いに笑ったけれど、あれはこの世の地獄を描いたものだ。
幸福感に包まれるラストシーンをもった映画に傑作がないわけではない。しかしこの「エリックを探して」のように、幸せ過ぎて泣いてしまったのはおそらく生まれて初めてではないか。
監督はケン・ローチ。この映画の製作陣にも名を連ねているエリック・カントナは90年代に活躍した名選手で、いくつかのクラブを渡り歩いたあと(問題児だったらしい)、香川真司が来期から加わるマンチェスターUで才能が一気に開花。
と、まあこれはネットからの受け売りでなおかつ多分不正確な情報でした。気になるひとはご自分で。
唐突ですが、いまわたしはなでしこの宮間に胸キュン(古ッ!)です。