竹内銃一郎のキノG語録

大きな力に抗して  今年の回顧①2015.12.29

日曜日には水沼夫妻と忘年会と称した飲みつつ食べつつの歓談のひとときがあり、月曜日にはA級Mの忘年会に参加させていただいて。いつにない悦ばしき慌ただしさとともに、一年が終わろうとしている。

有馬記念は、出走馬中ダントツの低価格馬、ゴールドアクターが快勝。おそらく、わたしが本命に押した超良血馬トーセンレーブの20分の一程度のお値段だと思われる。ま、御年90歳であらせられる馬主はオーナーブリーダーで、自分の牧場で生まれ育てた馬を自分で走らせているのだから、誰かに売ったわけではないのだけれど。それにしても。16頭の出走馬中、サンデーサイレンスの血を持つ馬が14頭! いまやサンデーにあらずば馬にあらずと言われる中で、そのサンデーの血が一滴もなく、さらに、家族経営的な弱小牧場の生産馬が、超巨大勢力の社台グループの有力各馬を蹴散らして勝ったのだから、馬券は外したけれど、実に爽快。小さなものが強く大きな力を倒したということでいえば、ラグビーWカップで南アを倒した日本もそうだ。ともに今年一番の快挙というほかない。

いまに始まったわけではないが日増しに、強く大きな力が世界を席巻し、弱く小さな声が届きにくくなっている。足元の定まらない人々が、なだれをうって大きな力に飲み込まれ、大きな力の補完勢力となって小さなものたちの存在を危うくしている。端的な例が、ISに参加する若者が後を絶たないという事実であり、シリア等の難民受け入れを拒否する欧米各国の善良な市民たちだ。

二週間ほど前であったか。関西ローカルのニュースで、橋下徹が大阪市長を退任するというので、彼の知事・市長としての業績を紹介していた。彼自らの言によれば、行政の無駄を省いて財政を立て直したというのだが、その無駄を象徴するものとして文楽協会への助成金カットがあり、橋下と文楽協会の面々との交渉時のやりとりが映像で流された。当時も、そしていまも、その映像を見れば、助成金になんか頼らず、自分たちでもっと営業努力をしなさいよという、橋下の言い分の方が正しいと多くのひとは思うだろう。経済第一と考える橋下の論理に抗する論理が、文楽協会側には皆無だったからだ。彼らはただただ、助成金をカットされたらわたしたちは食えなくなると言うばかり。そんな言葉に誰が同意・同情などするものか。だって、フツーに働いている市民の大半は助成金などいただいていないのだから。数百年の伝統を持つ文楽という芸能を、あなた(橋下)も市民も守り育てて、次代へつなぐ義務があるはずだという正論を、なぜ堂々と言えなかったのか。言葉・論理がなかったというより、伝統芸能に携わっているという誇りがなかったのだ。彼らもまた経済第一主義者で、おそらく、長く興行の不入りが続く中で、自らの誇りと尊厳を失ってしまったのだろう。

安保法制をめぐる議論も、同様な不毛を感じた。多くのマスコミは、安倍政権に反対の声をあげたシールズに対して好意的な報道を繰り返したが、言うまでもなく、それは彼らが「絵になる」からで、それは視聴率を上げるため、即ち経済第一主義にほかならず、経済経済と言いたてる安倍政権(=大きな力)と実は彼らも同じ立場に立っているのだ。それにしても。反対勢力の「戦争反対!」というシュプレヒコールは、なんと安易で陳腐だったことか。この種の分かりやすい言葉に飛びつき結集する、自らの善良さに疑いを持たない人々も、わたしの目には「危ない人々」のように映る。

という劣悪な状況下で、「小よく大を制す」快挙をなしたゴールドアクターやラグビー日本チーム同様の(というにはあまりに小さすぎるのだが)、「小」なる芝居がわたしを勇気づけてくれた。それは …(以下は次回に)

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