竹内銃一郎のキノG語録

お粗末様でした「東京家族」2013.10.11

オ、ト、トッ。今日はわたしの66回目の誕生日。情けないやら恥ずかしいやら。
一昨日は、実習を担当している2年生の学生諸君から、昨日は卒業生の佐藤さん、大妻さんから甘いものをいただきました。かたじけない。
公演を間近に控えて、ドラボは風雲急を告げているが、わたしがなんのかのと口出しするのは得策ではあるまい。ここが力の見せ所、関係諸兄には頑張っていただくほかはない。
先週末、久しぶりに東京に帰っていつものように、競馬と映画に明け暮れる。
山田洋次の「東京家族」。「東京物語」をベースにしてとは聞いていたが、ストーリーはほぼ同じ。どこからどう見たってリメイク版だが、にもかかわらず、「東京物語」のシナリオを書いた小津、野田の名が、原作者として明記されていない。これはどういうことなのか。
監督は、この作品を小津安二郎へのオマージュだと言っているらしい。映画の冒頭にそんな字幕が出てきたような気もするが。
小津さん、この映画を見たらなんと言うのだろう? 「冗談いいなさんな」とでも言うのではないか。
「許されざる者」のリメイク版も大した代物だったが、ひどさを言ったらこっちの方が断然だ。
野球に例えれば、同じアウトでも、前者はとにかく3回バットを思い切り振っての三振だが、こちらはみみっちくボールに当てにいった挙句のPゴロ。最低である。
必要があって、久しぶりに「映画芸術」を読んでいたら、あの西部すすむ(漢字が思い出せない)が、佐高信と元文部官僚の映画評論家・寺脇研との鼎談の中で、この映画を取り上げていた。これがなんとも痛快で。言ってることがいちいちごもっとも。小津版では中村伸郎がやっていた、美容院を経営している次女の亭主を、あろうことかこぶ平(いまは正蔵だけど、いいんだ、こぶ平で)がやっていて、あいつはただのバカにしか見えないという西部の発言に大笑い。
そう、中村は、女房の尻に敷かれた役立たずの髪結いの亭主に見えて、実はかなり優秀な女房と店のマネージャーなのだが、山田洋次はそれが分からず、ただただヘラヘラふらふらしてる間抜け野郎にしてしまってる。もしかしたら、そのような自らの愚かしい変更(読み違え?)にさえ気づいていないのかもしれない。
西部も指摘していたが、小津版には物語全般に終始、戦争の影があり、リメイク版のキモは、まさにその<戦争>をどうするかにあったはずだ。
山田版は、本当はもう少し前に作る予定だったのだが、東北の震災に山田は大きな精神的ダメージを負い、それで製作を延期したらしい。
ということは、そのダメージを乗り越える方法が見つかったからこそのリスタートだったはずだ。
で、その震災がどのように描かれているのかと思ったら、オリジナルでは原節子が演じていた、戦争で亡くなった次男の嫁にあたる役を、妻夫木(次男)と蒼井優(彼の恋人)に割り当てているのだが、このふたりはボランティアに行った被災地で出会った、橋爪功演じる父の古い友人が震災で亡くなったと、なんだかとってつけたようなエピソードで済ませているのだ。
ひょっとして、舐めてるのかな、山田洋次は。映画を、観客を、小津安二郎を、その他諸々を。
以前も書いたが、震災は確かに天災だけれど、原発問題も視野に入れれば、それはほとんど<戦争>で、ほんとに震災でダメージを受けたというのなら、なぜ、もっと大胆に震災を作品の中に取り込むことをしなかったのか。
いったいなんのためのリメイクだったのか。
他にも幾つか、「許されざる者」のリメーク版に通じるモノに気づく。
この映画には、オリジナルには確かにあった<東京>がどこにもない。風景皆無。東京ばかりでなく、父が住む瀬戸内の島がどんなところかもよく分からない。
また、バイトで舞台関係の仕事に就いているらしい次男が、では具体的に舞台関係のどんな仕事を目指していているのか(舞台美術のプランナーなのか、大道具の制作なのか、舞台進行なのか)さっぱり分からず、彼のバイト先での仕事ぶりも見ても、実際のところヤル気も見えない。そういう男として設定しているとも思えず。ほんとに適当、おざなり。
あるいは。オリジナルが作られた時代では、おそらく美容院はハイカラな女性の仕事で、だから、なにごとにも積極的で、ただの主婦じゃなく「働く女性」を志した次女(の設定)にふさわしい仕事だったのだ。しかし、それから50年余が経っていて、次女の設定を変えないとしたなら、もっと別の職業を考えなければいけなかったんじゃないの? なぜ考えない、このバカタレどもが!
俳優達も厳しかった。わたしが国宝級の器と思っている蒼井優も、なんということもなく。ま、ホンのデキがひどいからしょうがないとは言え、原節子と同じ台詞を言うのだけれど、その内実のなさ!
こぶ平のひどさは際立っていたけれど(こんな仕事を請けてはいけない)、次女役の中島朋子も、なんだろ、このひと。前から思ってたんだけど、なにかとんでもない勘違いをしてるのじゃないか、自分は上手いと。全然。やることなすこと鼻につくだけなんですよ、あんたの芝居は。
長男の嫁役の夏川結衣。いい悪い以前に、全然存在感がない。いてもいなくてもって感じで。
改めて、オリジナルで同じ役を演じた三宅邦子の凄さが分かった。別に上手いというわけじゃなく、役柄もあるのだが、概ね控えめなところにいるのだけれど、でも確かに、嫁がいる、義理の姉がいる、子供達の母親がいるって感じさせるのだ。
長男役の西村雅彦。こんな医者に誰がかかるかって感じ。知性の微塵も感じさせない。うん? それが狙い? まさか。
風景も皆無なら、人間も不在の映画。この映画に限らず、いま日本で作られている大半の映画もドラマも芝居も、そんな代物なのだけれど。うん? それが現在のリアルな日本、東京? そうかもしれない。
それはそれとして。周防正行の「終の信託」(でよかったのかな?)で検事をやった大沢たかをなんて、ちょっと感心してしまったけど。やっぱり昔に比べて、俳優の力量が落ちてるのかも知れない。
同じく週末に見た「集団奉行所破り」。名人小国英雄のシナリオが冴えまくってるんだけど、奉行所に押し入る連中を演じる数人の俳優たち、金子信雄だの内田良平だの里見浩太郎に混じって、わたしが見たこともない俳優が3人ばかり、これがまあ芝居の上手いのなんの! 監督は長谷川安人。このひとの名前もいまはほとんど聞かれない。どう控えめに見ても、リメイク版の「許されざる者」や「東京家族」より数倍面白いのだけれど。
今度の日曜、秋華賞にはわが愛馬ティアーモが出走! 先行して直線二枚腰を見せて、後方から差してくる有力馬たちを見事完封!
乞う、ご期待。見せまっせ、やりまっせ。
それにしても、固有名詞が出てこない。ああ!
(補足)
俳優たちの名前が曖昧で、みんな「なんとか」ですませて書いたのだが、それは彼らに失礼だと思い、ネットで調べて書き直した。ついでに、目に入った映画の感想みたいなのを読んだら、みんな声を揃えて、泣けたの、俳優達が素晴らしかっただの、まあ、わたしの感想とは間逆の、絶賛また絶賛のオンパレード。ま、関係者の宣伝のための書き込みも多く混じってるとは思うけれど、なんとなく暗澹たる気持ちになる。
みんな、マジメに冷静に、ちゃんとマナコを開いて、映画を見ましょうよ。

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