竹内銃一郎のキノG語録

エンゲル係数2014.04.23

必要あって地方競馬のことを調べていたら、かってこの国には100を超える競馬場があったと知ってショックを受ける。わたしが長く住んでいた板橋にも競馬場があったなんて。
100を超えるといったって、同時期に100あったわけではなく、増えたり減ったりしてるからノベで、ということですが。しかし、いまはJRAが10、地方競馬場がばんえいを含めても20くらいですからね。
映画館も減りました。学生時代、わたしが住んでいた埼玉の与野から大学があった高田馬場まで、20ほどある各駅前には、すべて映画館がありました、というか、山手線はいうに及ばず、私鉄のちょっとした駅前にだって映画館はあったのに、いまは …
映画館が潰れたあと、多くはボーリング場になり、それがスーパーに代わり、いまは大半飲食店になっているのではないか。
ネットのニュースが、そのファストフード店をはじめとする飲食店にバイトが集まらないと報じている。それで、やむなく時給を上げてきてると。しかしその分、労働条件も過酷になっている、とも。
よく学生たちに、バイトの時給は不当に安いから、みんなでストライキしろと煽っていた。どこだって学生バイトがいなきゃやっていけないんだから、やれば必ず成功するから、と。安い時給で稼いだお金で安いファーストフードを食べてる、これ、タコが自分の足を食って飢えをしのいでるのと同じだよ、と。
学生たち、どうも自覚がないようだったが、わたしの学生の頃に比べても、ほんとに耐乏生活をしいられてる。
学生の頃、つまり40数年前、わたしは家から2万円送金してもらっていて、それに月に5千円分くらいのバイトをすればフツーに暮らせた。まわりの友達も大体それくらいだったはず。当時、多分ラーメン一杯が50円くらいで、いまはそれが500円くらいだから、換算すると、いまなら一ヶ月25万円の生活。でも、ひとり暮らしのいまの学生諸君の生活費、多分20万を大幅に割っているのではないか。その厳しい生活費の中からスマフォ代を毎月1万くらい払ってるわけでしょ。キツイワ。芝居や本等々の「文化費」にお金を回せないのも無理のない話で。
テレビの番組も、スポーツ中継とニュースを除いた番組の、60~70%はなんらかの形で飲食に関するもので占められているのではないか。エンゲル係数65%! 超貧乏。その一方で、ダイエットがどうの健康がどうのと言ってるわけだから、ほとんどビョーキの世界だ。
貧乏でビョーキ。これは日本だけじゃないはずだから、いわゆる先進国、すごいことになってる。
多分、70年代までの映画や小説や芝居の大半のテーマは、貧困だった。貧困=食えない。貧しさゆえの戦争、貧しさが恋愛・結婚の妨げになり、貧しさが家庭の離散・崩壊を招き、貧しさが犯罪に走らせる、等々。
先頃見た映画、「夜の牝犬」(監督・村山新治)もそんな映画で。ゲイバー(?)で働く梅宮辰夫と、やくざの親分にとりいってスナックのママにおさまってる緑魔子が主人公。男は店の客の老舗料亭のおかみの亭主になって、女は親分に離婚させて奥さんにおさまって、とにかく金持ちになるべく、あの手この手で夢に近づこうとするが …というお話。典型的な60年代の映画だ。
何度も繰り返し書いてきたが、昔のこういったいわゆるB級のプログラムピクチャー、例外がないわけではないが、ちゃんと映画になってる。最後は大体、刺したり殺されたりバタバタするのだが、ちゃんと飽きさせず見せてくれる。
女優陣の健闘が光る。緑魔子と親分の奥さんを演じる沢村貞子のつかみ合いの喧嘩。凄い迫力。本気じゃん! と思わせる。何年か前に亡くなった大原麗子が北海道から家出してきた女の子をやっていて、これが、えっ? と思うほどいい。
ちょっとアタマが弱いけど純真無垢で …という、フェリーニの「道」のジェルソミーナみたいな、下手すれば引きそうな役を見事に演じてる。
でも、こういう話もこういう役もいまは成立しない、多分。ほんとにおいしそうにご飯を食べる麗子さんにひきかえ、今の子はみんな不味そうにメシ食うし。テレビのグルメリポーターなんかも、「ウマーイ!」と絶叫しておいて、一口二口しか食べない。ま、あちこち回らなければならない事情もあるのでしょうが。
これもネットニュースで見たのかな、牛丼なんてみんなメシじゃなくエサだと思って食べてるはずだ、と。
唐突に結論。
豊かさってなんでしょう?

そうか。「牛丼とスマフォ」というタイトルで、今日の貧困を書いてみるのも ……?

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