竹内銃一郎のキノG語録

泣いて、そして、笑うのだ2014.05.07

夜明けの夢。元秘法メンバーで現POGメンバーの岩本に、長野が亡くなったことを伝えようと思うのだが、なかなかことばが出てこず、嗚咽してしまったところで目が覚める。

 
寺山修司というひとのわたしの評価は、世間のそれよりずっと低いが、競馬エッセーに関するそれだけは別だ。
あなたは競馬が好きだというけれど、結局のところ、馬券の収支は平均するとプラスなんですかマイナスなんですか、と友人に聞かれて、彼は激怒し、あなたは自分の人生を平均して、泣いたことになるのか笑ったことになるのかと、そんな風に考えるのかと応えたという。
確かにその通りだが。長野の人生を考えてしまう。彼との付き合いは2年にも満たない(多分)短いものだったが、結局彼は、泣いたのか笑ったのか、と。そして、わたしの人生も。もうそれほど長くはないのだろうが、結局、泣くのか笑うのか、と。
稽古場で、彼にも言ったことがあったかどうか。色を混ぜるな、と。泣き笑いは、泣きながら笑おうとするな。泣いて、笑うか、笑ってから、泣くか。どっちかを選べ、と。
この一週間ほど、新作のラストをどうしたらいいかでずっと悩んでいたが、主人公の死でしめくくることにする。
自分の身辺雑記から、そして、社会の分かりやすい動向からも遠く離れて、出来うる限り虚構の度合いの濃いものを書きたいといつも考えているが、身体レベルではそうはいかない、日々の呼吸が作品に反映しないわけがない。
先の結論はもちろん、長野の、わたしにとっては唐突きわまりない死によって、促されたものだ。
しかし。他人の死をエサにする。普通の人々ならこんなことはしないだろう、外道以外は。

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