ブルーノ・Sからキートンを経由して、ガンツへ。 映画の不思議な旅③2016.10.25
「映画の不思議な旅」というタイトルは、この一ヶ月ほどの間に見た映画が、偶然としか思えない<重なり>をもって延々と途切れることなく続いていたことを指している。それは、テーマがどうこうといったメンドーな話ではなく、前回書いたような、出演俳優の名前が同じという、まあどうでもいい偶然の一致である。こんな偶然の重なりもあった。「シュトロツェクの不思議な旅」の3人組は、ベルリンからアメリカの片田舎へ移動し、トレイラーハウスを買ってそこに住むのだが、この映画とあい前後して見た「キートンのマイホーム」もまた。
キートンは結婚し、叔父さんに土地と家をプレゼントされる。しかし、家は自力で作らなければならない。途中、花嫁に横恋慕していた男のいたずらがあったが、悪戦苦闘の末、なんとか<変てこな家>を作り上げ、新居完成祝いに知人友人を自宅に招く。と、ハリケーンの襲来。しっかりした土台がない彼らの家は、暴風に煽られ、まるでメリーゴーラウンドのようにすさまじいスピードでクルクルと回転し、みんな窓からドアから放り出されてしまう。一夜明けると、家はとんでもない形に変形。そこへ、見知らぬ男が現れて、ここは自分たちの土地ではないことを知らされ、家を車に接続し、本来の土地へ移動しようとして …。ブルーノ達の家も、銀行によって競売にかけられ、車で運び去られてしまうのだ。
キートンというとどうしても、超絶としか形容し得ない、アクロバティックな体技に目を奪われてしまうが、若き日の面立ちもホーと声が出そうな美形。「ノスフェラトゥ」に登場する若き日のブルーノ・ガンツも同様である。映画は、灰色の空をバックに、数羽のコウモリが羽根を広げてゆったりと飛び交う不気味なシーンから始まる。それは、ガンツの妻(イザベル・アジャーニ!)の夢。彼女はすぐさま夫にその夢の話をし、なにか不吉な胸騒ぎが …と伝えるが、夫は「大丈夫だよ」と笑って、勤めに出かける。勤務先の上司(不気味なことこの上ナシ!)は、彼の顔を見るなり、ドラキュラ伯爵から物件の依頼があったから、すぐに彼のもとに赴くようガンツに指示をする。ガンツは、止める妻をなだめて「不思議な旅」へと出発。馬に乗り、山を越え谷を下り、出立から数日後の夕暮れ、ようやくお城に到着。しばらくすると、怪優クラウス・キンスキー演じるドラキュラ伯爵が現れて …。ここまではさほどのことは起こらない。ただ、冒頭のシーンと同様、画面には終始、深い霧に包まれたような、重くじめっと湿った空気感が漂っている。遅い夕食をとっているガンツの首にかかったペンダントに侯爵は目を止め、ペンダントの写真は誰か? と問い、自分の妻だという答えを聞くと、「美しい」と言って、彼の眼は異様な光りを放つ。
翌朝。目覚めたガンツは、自らの首筋にふたつの小さな穴があるのに気づく。そして、夜にしか姿を見せないと言う侯爵を不審に思ったガンツは、日中、敷地内にある別棟に足を踏み入れ、地下室に入り、古い棺桶を目にする。蓋を開けてみると、侯爵の死体が! 彼はやはり、噂通りの吸血鬼だったのか! 夕方。自室としてあてがわれた部屋の窓から庭を見おろすと、大勢の人間が集まって、荷馬車に大量の荷物とそしてあの棺桶を乗せている。街に引っ越すつもりなのだと悟ったガンツは、慌てて部屋を飛び出そうとするが、ドアが開かない。急がねば、彼より先に街に戻らなければ、愛する妻が侯爵に襲われる!
ここからが怖く、そしてなんともサスペンスフル! 侯爵は船で、ガンツは馬で、街へと急ぐ。道中、侯爵を乗せた船の船員たちはバタバタと死んでいく。侯爵の棺桶と共に乗船した大量のネズミがペスト菌をばら撒いたからだ。一方、ガンツは病気になって途中でストップ。大量の死者と数千は下らないと思われる大量のネズミと、そして侯爵が眠る棺桶を乗せた船が、静かに静かに、ガンツが住んでいた町に到着する。そして …