竹内銃一郎のキノG語録

ハモエは鱧絵?2017.01.19

わたしは宇治川沿いの土手の上を14,5歳(推定)の女の子と歩いている。彼女はよく笑う。この子は誰だろうと思いつつ。いくら記憶をたどっても分からない。知り合いの娘さんかとも思うが心当たりはなく。そもそも彼女の話す言葉が分からない。聞いたことのない言葉。肌色顔つきから、中南米系もしくは南欧系かとも思うが、むろん、その方面の知り合いはない。にもかかわらず親し気に耳慣れぬ言葉で話しかけて来て、自分の名は「ハモエ」だと言う。ハモエ? わたしのことを知っているのかと聞いてみる。「ジューちゃん」と答える。うん? わたしをそう呼ぶ者は極めて限られているはずだが …。向こう岸を見ると、長く長く本棚が横一列に並んでいて、100米くらい離れているが、本棚の本はわたしのものだと分かる。なぜこんなところに?

転居先が決まり、今週から引越しの準備に入る。難物は本だ。いまの住まいに引っ越したときにも、研究室と池袋の住まいの本を、ひとにあげたりブックオフで売ったり大量処分したのだが。まだまだ。今度の住まいに収めるためには半分ほどまた処分しなければならない。というわけで、昨日、水沼、土橋両君にA級Mの俳優松原くんも加わって、我が家に来てもらい、好きなだけ持ってって貰う。合計100冊くらいか。もちろんそれだけでは足りず、今朝、ブックオフに出張買取の電話をする。とりあえず家にあった段ボール5箱に詰める。150冊くらい。まだまだ全然。ざっと本棚を見回すと、あと2~300冊くらいはなんとかしないと、どないもならん。どれを手放すか、再度の選別。同一著者のものは2冊だけ残すことにして(前田英樹と中井久夫とわたしの著書のみ例外)、あとはブックオフ等の古本屋へ。わが身を切り裂くようで、辛い。まあ、残された時間内に読める本の量はおのずと限られているのだが。

ハモエがなにを言っているのか、どこの誰なのか、どうしてわたしと一緒にいるのか、なにも分からないが、彼女が楽しそうなことだけは分かり、わたしはいつになくウキウキしている。水辺に大きな、首の長い白い鳥が。あれは去年の夏、酒蔵の屋根のてっぺんに、鳳凰かと見間違うほど堂々と止まっていた鳥だ。と思った途端、ハモエはもしかして「鱧絵」というのではないかと気がついて、キューンとなって涙してしまう。何故だか分からない。

 

 

 

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