シンプルな応答。これは近代劇の基本です。 「花ノ紋」演出の指針④2017.11.12
P23 さき:三原山さん。
きちっと呼びかける。大きい声を出す必要はないが、呟きにしてはいけない。
この台詞が、「逃げましょう」という言葉を引き出したのです。彼女のこの言葉には、死の匂いがします。書いた時にはそんなこと思いもしなかったのですが。昨今世間を騒がせている「9つの遺体事件」の影響かも知れません。
三原山:死んでない、死んでない~
二本の足だってある、といって踏ん張るのはいかがなものか? こう言いつつ、ほんとに自分は生きてるのかと不安になってほしいのです。「落ち着くんだ、落ち着いて」というのは、相手にだけでなく、不安な自分自身にも向けられているのではないか。
P24 松男の「戦争が始まるってさ」以下の台詞に、とものはもちろん、驚くわけだけれど、彼女にとって、「戦争」は、「雨降り」とさほど変わらない。フツーの市井を生きるひとは、戦争なんて言葉にはその程度のリアリティしか感じないはずです。
あたま山心中
最初の妹の長台詞
ト書きにも「祖母が孫にお話を~」と書かれているように、稽古終了後にも話しましたが、もう少し年寄りに設定して、P27の兄が去ったあとのト書きとともに、「雨が~」以降に語られる当時の年齢、30台半ばに移行してほしい。
P26 兄、妹の語りかけに、明快に返答すること。「ええ、まあ」「さあ、それは …」等も、言葉を濁さない。以降も同様。兄は妹の攻撃に恐縮する、ひたすら耐えるというのではなく、堂々と受けて立って、やりとりを深刻さから遠ざけること。
P28 妹に「バカよ、あなたは~」と言われて、兄は驚くわけですが、それは言葉にではなく、ミチルの年齢設定が急に変わったことに対する驚きです。
P30 「ところでタダシはどうしてる?」以降も、フツーの夫婦・家族の会話然したものに。稽古終了後にも話しましたが、コロコロと役どころが変わることを面白がることが第一で、悲惨かつ深刻な状況下にあることを「説明」しようとしてはいけない。
P32の「チルチルは黙って~」というト書きをキッカケに、兄はそれまで抑えていた感情が溢れ出す。そのためにも、それまでは妹がなにをしようと、彼女になにを言われようと、平然としていなくてはいけない。
P33 妹の長台詞。懐かしい民謡でも歌うような感じがほしい。「風立ちぬ」の三原山の長台詞同様、どこで間をとり、どこを詰めればリズミカルな語りになるかかを考える。
P34 兄の「ああ、遊園地が見えるよ」以降に語られているのは、昔、ふたりで見た懐かしい光景が、ロープの輪の向こうに浮かび上がってきて、それを言葉にしていると理解して下さい。その光景は、ふたりにとって何物にも代えがたい、幸せを感じさせるものではないか、と。
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○稽古でも繰り返し話していることですが、シンプルに質問し、シンプルに答える。これが近代劇の基本です。あるいは。この質問は、素朴な疑問から発せられているのか、それとも、明快な答えを要請する詰問なのかをハッキリさせることも。