竹内銃一郎のキノG語録

「花ノ紋」解題2  酔・待・草   2017.11.14

登場人物:第一発見者・カオル先生  刑事・ブッチ  刑事・サンダンス  目撃者・チャーリー  被害者の兄・ヒムロ  被害者・カスミ

plot

田舎道。一本の木。夕暮れ。木のまわりには宵待草の花が咲いていて、その花に包まれて少女(カスミ)が、死んだように眠っている。あるいは、眠ったように死んでいる。という場面設定は最初から最後まで変わらず、舞台という作り物の世界で流れている時間は、現実の時間経過と一部を除けば寸分の違いもない。言うなれば、ほぼひと幕もの。劇はその「一部」「ほぼ」にあたるところから始まる。

上手から下手にカオルを乗せた自転車が走り抜ける。少し間があって。自転車を引いてカオルが現れ、「幼稚園を出たのが5時をまわった頃でしたから …」と話し出す。その語り口は、警察の取り調べに応えてのもののようだが、そこには捜査関係者はいない。通りかかった時、花に包まれているカスミは、眠っているのか死んでいるのかよく分からなかった。近寄って確認しようと思ったが、怖かった。早くこの場を立ち去ろうと思ったその時、すぐそばにある公衆電話のベルが鳴り響き、受話器を取ると子供の間違い電話だった。受話器を置いたその時、笑い声が聞こえたので彼女かと思い、目をやると、「彼女の口元からひと筋、赤い血がながれておりました」。長い長いカオルのモノローグが終わると暗転。

明るくなると、そこにはブッチがいて、「勤務の合間に雑巾作りの内職とは、田舎の刑事も大変だなあ」と言いながらサンダンスも登場。ここからは舞台と現実の時間が一致する。ふたりの親密度を誇示するかのように、憎まれ口を叩きあってると、チャーリー登場。するとふたりは、彼を犯人に仕立て上げるべく、矢継ぎ早に質問の雨あられ。チャーリーに答える隙さえ与えない。やっと弁明の機会を与えられたチャーリーは、昨日の夕方、死んでる彼女がそこのベンチで、若い男と親しそうに話しているのを見たといい、犯人はあの男に違いないと話しているところに、カオル再登場。チャーリーとカオルの言い分の食い違いにふたりの刑事が苛立っていると、「カスミィ!」とヒムロが登場。ヒムロはカオルとチャーリーの言を聞き、そんなはずはない、今朝、彼女は仕事先に行ったはずだと言う。が、チャーリーは、「昨日の夕方、彼女とここで話していたのはこいつです」と証言。もちろん、ヒムロは否定をし …。新たな人物が登場するたび、話は混迷の度を増し、事件の真相は遠ざかる。と、突然公衆電話のベルが鳴り、カオルが受話器を取って「もしもし ~」と語りかけると、横になっていたカスミが「モチモチ、目を閉じたままでしか見えないものってなんですか」と話し出す。カオルが「答えは夢よ」と答えると、次々にカスミは謎々の問題を繰り出し、その場にいる者たちは順に「愛」「屁」「星」と答え、「川を渡ってやってくる。~誰もが一度は出会うひと。~誰も彼から逃げられない。このひとは誰?」という問いに、それまで無言だったブッチは「答えはこれだ」と拳銃を抜いてカスミを撃ち、「今度はこっちから質問しよう。どんなホラ吹きでも、絶対バレてしまうホラってなんだ?」「私は死ンデイマス」と答えて、カスミは倒れ伏す。そして …(続く)

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