竹内銃一郎のキノG語録

金太郎飴みたいな? 「花ノ紋」解題4 風立ちぬ②とまとめ2017.11.24

原爆と思しき爆弾が投下されて暗転。明るくなると、奇人(?)の宝木が地面をはい回っている。そして、アリを見つけて、ああ、生き残ったのは自分だけじゃないんだと喜ぶ。そこへ三原山が登場。宝木は「え、お前、生きてたの?」と驚き、そして、三原山は幽霊だと思っていたので、「あれ? 俺もひょっとして幽霊?」と思ったりする。それから、ここまで幾度か繰り返されてきた、お互いが相手の質問に返答せずに質問のみをぶつけあう、不毛の会話が始まる。

三原山  悪いけどさ。これ(と、礼服上下を示し)
宝木  (あたりを見回し)ここどこよ。
三原山  これ、坂口さんに返しといてくれるかな。(と、宝木に差し出す)
宝木  嘘嘘。死ぬわけないでしょ、おれが。
三原山  頼むよ。
宝木  だっておれは、七つの心臓を持つ男なんだから。
三原山  なにわけの分からないこと喋ってンだ。
宝木  嘘じゃないって、ほら。

宝木、ポケットから、手のひら大の赤いブリキのハート形3枚とダイヤ形1枚を取り出す。

三原山  ダメだ、こりゃ。もういい、自分で持ってく。坂口さんち、どこ?
宝木  ああ、これ(ダイヤ)? これは照子の心臓。さっきそこで拾ったんだ。
三原山  どこなの? 坂口さんの家は。
宝木  照子はダイヤが好きだった。
三原山  おい。
宝木  きれいだろ、キラキラ光って。なんだかまだ生きてるみたいだ。
三原山  誰と喋ってンだ。
宝木  ああ、雲が流れて。いい風だ。
三原山  風? 吹いてない、風なんか。
宝木  あ、芽が出てる(と、木の切り口を見て)。強いなあ、植物は。
三原山  芽? (と、木を調べ)出てないじゃないか、芽なんかどこにも。
宝木  〽ぼくらはみんな生きている 生きているから歌うんだ(と、歌いながら、地面に足で土俵を描く)
三原山  いかんいかん。こんなバカの相手になってるひまなんかないんだ。どっちだったかな、坂口さんの住んでるアパートは。(と、去ろうとすると)
宝木  おっと、三原山、肩透かしを食らって土俵際まで吹っ飛んだ。今日も負けたか、三原山。

三原山  (振り返り)なんだ?
宝木  残った残った、残りました、残っております三原山。
三原山  誰なの? おたく。
宝木  いいなあ、呼び込みの太鼓の音は。
三原山  えっ? …‥

相撲太鼓の音が遠くから流れてくる。

三原山  そうか。明日からまた大相撲が始まるんだ。

ふたりは耳をすましている。相撲太鼓にかぶって、PPMの「悲惨な戦争」が流れる。静かに。

幕。

リアルに考えれば、世界はもう終わっているのだから、相撲太鼓はふたりの幻聴であろう。しかし、ともに聴こえるということが重要で、それまでさしたる理由・原因があるわけでもないのに敵対関係にあったふたりだけが生き残り、そして、同じ音を聴くことでたまさかの平穏を共有するのだ。この構図は、「Moon guitar」の、互いに快く思っていなかったタクミとマオが、けん玉を媒介にして友情が生まれる構図と同様で、さらには、母子がふたつの輪に微笑みながら首を入れて終わる「あたま山心中 ~」、手錠でつながれたブッチとサンダースが、弾丸が雨あられと降り注いでいるらしい中、ヴォリビアへ行こうと声をかけあう「酔・待・草」とも通じ合うものがあるラストだ。まあ、ひとりの作家が書いているのだから、切っても切っても同じ顔が出てくる金太郎飴みたいになるのは、当たり前と言えば当たり前の話だけれど。

さあ、明日は初日。昨日の稽古では大きな収穫があった。上演される「風立ちぬ」(の一部を切り取った)の最後のところで、松男が「えらいことになった」と現れ、戦争が始まったことをその場にいた妻のとものと妹のさきに告げるのだが、松男役の金替くんが、「えらいことになった」という台詞を尋常ならざるバカでかい声で言うのだ。フツーの芝居では「そんな大声いらない」とわたしは注意するだろうが、今回はリーディングである。一応、奥から出てくるという動きをともなってはいるが、舞台が狭いこともあり、ドタバタという動きにはならない。その、本来ならドタバタと慌てて登場という動きを彼は、バカでかい声で明快に示したわけである。ああ、こういう手があったかと、わたしは唸ってしまった。

 

 

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