「花ノ紋」解題4 風立ちぬ2017.11.23
今日23日は最後の稽古日。ああ、明後日には本番だ! 急がねば。
「風立ちぬ」の初演はいまから約20年前の1998年だが、2年半ほど前に改訂しているので、この作品についてもこのブログで触れている(2015・3・10 「無茶苦茶や!」な世界が踊る? 「風立ちぬ」の改訂終わる)。下記の文章は、その一部を引用したもの。
【登場人物】
吉野松男 (三原山こと小川錦一の幼馴染) ともの(松男の妻) まりえ(松男の娘)
さき (松男の妹) 三原山(元・相撲取り さきの命の恩人)
宝木陽之助(散髪屋) 照子(陽之助の妻) 岩村幸雄(さきの婚約者) あき(幸雄の母)
小野寺園子(高校教師 幸雄の昔の恋人で、さきの恩師) 坂口みすず(松男が所有するアパートの店子) 北島俊介(まりえのBF) 殿山(写真屋) 石松(宝木の助手)
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吉野家の庭。下手寄りに、下から1・5米くらいのところで切り落とされた木が一本。庭を囲む垣根には白い花が咲いていて、中央あたりに庭木戸がある。庭をのぞむ座敷は縁側に囲まれていて、奥に二階への階段が見える。初夏の午後三時ころ。縁側に松男と宝木。
松男 田舎って?
宝木 葉猥。
松男 ハワイ?
宝木 こっち(フラダンスの手真似)のハワイじゃなくて、男鹿半島の先にあるのよ、「はわい」って町が。ほら、UFOで有名な
松男 知らない。
この作品は、東京乾電池に書き下ろしたもので、ほとんどがあてがき。初演は1998年。内容は、長谷川伸の「一本刀土俵入り」「瞼の母」「関の弥太っぺ」の設定からいくつか借用し、上記の舞台装置は、山下耕作が撮った「関の~」の旅籠吉野家の庭をモデルとしている。因みに、柄本(明)さんが演じた三原山の本名小川錦一は、先の映画で弥太っぺを演じた中村錦之助の本名。要するに、乾電池の俳優諸兄と映画「関の弥太っぺ」へのオマージュ的な作品と言っていいか、と。
広岡(由里子)さんが演じたさきの結婚式の、前日と当日に巻き起こるてんやわんやが描かれているのだが、そのてんやわんやの果てに原爆(らしき爆弾)が落ちる、と。時代設定は、これが書かれた頃としたのだが、二日目は戦争が始まっているということになっているので、半分くらいの観客は太平洋戦争が始まった頃の話だと勘違いしたようだ。コノ国が戦争なんかするわけないと思ってるからピンとこないのですね、多分。「ハシリュウもバカじゃないから」なんて台詞もあるのに。あ、ハシリュウとは当時の首相橋本龍太郎のことです。
三原山が20年前に川で溺れていたさきを助け、命の恩人である彼のことをさきは今でも忘れられないという設定は、「関の弥太っぺ」から、主人公が相撲取り崩れというのは「一本刀~」から、三原山が死んだことになってるというのは「瞼の母」からのイタダキだ。こういう大衆演劇風の、涙なくしては語れない話の腰をポキポキ折るのは、ベンガルさんが演じた宝木で、彼は、奥さんはロボットだと広言するような、当人でさえ嘘とほんとの区別がつかない、原爆にも負けない「滅茶苦茶や!」な男。
話のおおよそはこんなところですが、あれこれ起こる「てんやわんや」の最たるものは、S3の結婚式後の記念写真をめぐるもの。並びをどうするかでスッタモンダするわけです。でもこれ、台詞なしではその馬鹿馬鹿しい混乱ぶりは伝わりませんね。スッタモンダの挙句、みんなその場からいなくなり、さきと三原山だけが残り、さきは三原山に「逃げましょう」と、前日の夜の台詞をもう一度繰り返す。そこへ、写真屋の殿山がやっと到着。そして、この日のてんやわんやの張本人である殿山が、カメラのシャッターを押すと、原爆が落ちる、と。これがわたしの「戦争論」なのですが。でも、劇はこれだけで終わりません。
と、気もたせをして。最後のエピローグと総まとめは次回に。