「オカリナJack&Betty」は敗者のオンパレード 「チェーホフ流」解題72018.01.04
「勝たなければ誰も(こっちの話を)聞いてくれない」とは、箱根駅伝を4連覇した青学の監督・原晋の言葉である。確かにそうだ。毎年、ハッピー大作戦だのワクワク大作戦だの、ベタなチーム目標を掲げ、それがマスコミで大きく取り上げられ、みんなの注目を浴びるのは、青学が勝ち続けているからだ。マスコミ=世間の、勝者=大なるものへの傾斜角度が年々大きくなっている。年末から年始にかけてのたけし・さんまのTV出演の頻度の高さたるやわが目を疑うほど。これもまた大なるものへの過度の傾斜の一例と言ってよかろうが、ダウンタウンも含め、ワタシ的にはとうの昔に賞味期限を過ぎてる彼らが、なぜ今もなお、かくなる過大な評価を得ているのか、それがどうにも分からない。もしかして、彼らがメインの番組なら若い人気者たちが二つ返事で出演してるから?
新年あけましておめでとうございます。われながら新年早々にふさわしいとは思えぬ無粋な上記は、これから書かんとすることの前振りで、つまり、大なるものへカウンターを食らわせてやろうという …。それにしても、連続上演のお客の入りはイマイチ。きっとわたし(たち)の声が小さすぎて、しかるべき人々に届いていないのでしょう。だから、なんのかんの言ってはみたものの、勝ちたいのです、わたしは、圧倒的に。だって、50人も来ていただければ客席は満杯になるんですから。なぜ来ない? と呟きつつ。今回から取り上げる「オカリナ~」は、まさに敗者の饗宴というべきお話で。
以前にも書いたように、本作はチェーホフの「ワーニャ伯父さん」の現代版を、という構想の下に書かれたもので。ワーニャにあたる高杉は、東京の板橋か練馬あたりの、数年前からシャッター街化している商店街の片隅で、電気屋を営んでいるという設定。姪のソーニャにあたるすみれは、パティシエを目指す専門学校生で、女房に逃げられた高杉とひとつ屋根の下に住んでいる。高杉家の屋根の下にはまだ他にふたり住んでいて、それは高杉の元妻の清美と、彼女の現(内縁)夫の小暮。これだけでも誰もが高杉の神経を疑うはずだが、さらに驚くべきことに、彼は小暮の借金の利子を、収入のない小暮に代わって毎月払ってやっているのだ。なぜそこまで? 頼まれたら断れない男なんです。登場人物は他に、すみれの幼馴染の満ちる、借金の取り立て屋・手塚、「バラバラ事件」の捜査にあたっている刑事・渋井、彼の高校の先輩でいまは交通課の警官・さやか、ラーメン屋の店員・岡本、すみれたちの小学生時代の担任・百合子先生と、結構多人数が登場する。
手短にストーリーも紹介してしまおう。取り立てにきた手塚がうっかりネズミ捕り用の団子を食べてしまい、七転八倒して苦しむ彼を抑えこもうとして、高杉と小暮はついつい彼の鼻と口を塞いで殺してしまう。そして、このままではマズイと思った彼らは、手塚の死体をバラバラにして …。「バラバラ事件」の捜査本部・別室で、渋井がさやかに告白するという話、すみれと満ちるのオカリナをめぐる思い出のシーンを挟んで、ラスト、高杉とすみれの語らいの中で、手塚が食べてしまった団子は、すみれが知らずに手塚にすすめたものだということが明らかになり、すみれは、冷凍庫の中に高杉が置き忘れていた手塚の右手にオカリナを握らせ、それを持ってこれから、手塚と一緒に行こうと約束していた大井競馬場に行くんだと伝える。因みに、タイトルの「オカリナ~」は、すみれが百合子先生から聞いた、オカリナジャックと言う競走馬とベティーという名の兎との友情物語に由来するものである。(この稿、続く)