竹内銃一郎のキノG語録

官能的とはこういうことだ。 何度目かの「霧の中の風景」2010.08.25

NHKBSで「霧の中の風景」を見る。監督はギリシアのアンゲロプロス。現役ではクリント・イーストウッドと並んで、わたしがもっとも敬愛してるひと。この作品もこれまで何度見たことか。
物語はいたってシンプル。ギリシアに住んでいる幼い姉弟が、まだ見ぬ父に会いに行く。その旅の途中で様々な困難に遭遇し、そしてそのたびに人生のなんたるかを学び成長していく、と。これを、難しいとか分からないとか言う輩がいるから哀しくなってしまう。確かに、説明的な台詞は少ないし、時に大胆な省略や飛躍があって、それに戸惑うのだろうけれど、感じるものがあるでしょ、驚きがあるでしょってことですよ。「分かる」より「感じる」を上位においたら、もっと世界は広がるのにさ。何度も見たのに、思いもよらぬ新しい発見がいくつか。一度見たら忘れられない雪のシーンがあるのですが。映画の半ばと思われたそれが、始まって間もなくしたらやってきた。えっと驚いて時計を見たら、確かに30分くらい経っている。時間の密度が濃いからだろう。官能的とはこういうことだ。
姉は小学5、6年生くらいだろうか。最初は生活に疲れた主婦みたいだったのが、する必要のない経験を重ねていく中で、大人の女性に変貌していく。それが切ないのだが、カメラが彼女の背後に回ると、まだホントに子供でしかないことがあらわになって、そのたびに胸をしめつけられる。音楽の入るタイミングが凄い。そのたびにドキッとさせられる。鶏まで正確な芝居をする。あぁ、この映画の素晴らしさをうまく伝えられないのがもどかしい! 今日明日とアンゲロプロス特集は続きます。BS見られないひとは、おあいにくさまですが。

一覧