竹内銃一郎のキノG語録

「食卓㊙法・溶ける魚」から始めよう。 「動植綵絵」メモ①2018.04.26

今回のタイトルは、いうまでもなく、伊藤若冲の代表作からの借用である。ピックアップした戯曲もタイトルに相応しいものとなっている。と書くと、「溶ける魚」「ひまわり」は確かに動植物だが、「ラメラ」「月ノ光」は? と疑念を抱かれる方がおられるかもしれない。いやいや。ラメラは地球外生物の仮名であるから動物にほかならず、若冲の「動植綵絵」30幅の中には、満月が梅の木を皓々と照らす「梅花皓月図」という傑作が含まれている。というわけで。例によって、その一部が上演される4本の戯曲を書かれた年代順に紹介していこう。

チラシ等には「食卓秘法・溶ける魚」(1981 秘法弐番館初演)とあるが、本当は「食卓㊙法・溶ける魚」が正式名。しかし。㊙なんてワープロで書けること、昨日、分かってビックリ。書けないと思っていたからずっと「食卓秘法」で済ましていたのだ。こう書いて「てーぶるまなー」と読む。秘法零番館という劇団名にちなんだ命名で、これ以後の作品にも「㊙法」をつけるつもりでいたのだが、これというアイデア浮かばず、後が続かなかった。そうだ、劇団名についても説明しておかないと。初演が秘法弐番館とあるのは、当時、公演ごとに、零・壱・弐と数字を増やしていたのです。なぜ? 同じところに留まらず、<常に新しく>を求めていたのです、はい。でも、12回目からは零に戻しました。なぜ? 大きな数字が鬱陶しくなってしまったからです、はい。

さて本論。例によって例の如く、本作のタイトルは、A・ブルトンの作品名からの借用。久しぶりに「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」(岩波文庫)を読む。これがまあ、面白いのなんの。購入したのは、おそらく1990年代半ば、「自由というただひとつの言葉だけが、いまも私をふるいたたせるすべてである」なんてところに傍線が引いてある。というわけで、今度の公演チラシのキャッチコピーも、「溶ける魚」の5の冒頭に置かれた「カメオのレオンが口をひらいたところだった」を分かりやすくもじって(?)、「カメオのレオンがノックする。ああ、月下繚乱!」とした。

登場するのは3人の男。貧しくそして心寂しきふたりの男が、肩を寄せ合って暮らしているアパートの一室に、得体のしれない、なにかと言えば大声で笑う男が、夜な夜な、うなぎを携えて訪れる。そして …。というのがこの劇のおおまかなストーリー、<うなぎ>をキーワードとするお話なわけだが、なぜそうなったかと言えば、言うまでもなく、「溶ける魚」からの連想にほかならない。おいしい鰻の蒲焼は<舌の上でとろける>なんて言いますでしょ。ちなみに、「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」を翻訳した巌谷國士による訳注に、「溶ける魚」という言葉に触れた箇所があって、ブルトンの「手帳」にあるメモらしいのだが、直接わたしの作品に関係ないけれど、せっかくなので(?)、以下に引用して今回の終わりとしよう。

ひとつの金魚鉢が私の頭のなかをめぐっていて、その鉢には、悲しいことに、溶ける魚たちしかいないのだ。溶ける魚、これについて考えてみたところ、すこしばかり私に似ている。笑うこと、非難することしかもとめない私の生来の厳格さに、これは通じている。

 

 

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