竹内銃一郎のキノG語録

「僕は年齢不詳のマスクマン」byイチロー 「動植綵絵」メモ②2018.04.26

前回のメモ①を読んで、「あ、また竹内のヤツ、アホな間違いを」とお思いになった方がいらっしゃるかもしれません、「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」を読んだのが90年代半ばっておかしくね? だって、「食卓㊙法 ~」の初演は1981年でしょ、と。いやいや。「食卓㊙法 ~」を書いた時点では「溶ける魚」、タイトルは知っていたけれど、読んでなかったってことなんです。そもそも。秘法零番館という劇団名は、ブルトンの「秘法十七番」という本のタイトルからきていて、この本の存在は、大学2年の時(1967年)に、早稲田にあった文献堂という古本屋の本棚にあるのを見つけ、手に取って頁を繰ったら、活字に色がついていて、ホエー! と驚き、驚いただけで購入はしなかったのですが、その衝撃はずっと頭の隅に残っていて、新劇団を立ち上げる時に、アレにしようと思ったわけです。秘法○○番とはタロットカードについている番号で、零番館としたのは、零から始めようという心意気からですが、零番が「愚者」を意味するというのも大いに気に入って。ブルトンの名もこの時に知ったわけです。え、衝撃を受けたのになぜ購入しなかったか? 難しそうだったのと、お金がなかったからでしょう、多分。いや、色のついた活字が並んでるのを見て、「すべて分かった!」と思ったのかも?

と、ここまで書いて、「Number  951」(目下発売中)に掲載されてるイチローのインタビュー「失意と泰然」を読んだら、俄然テンション・アップ。言ってることが面白いし、イチイチ凄い(やっぱイチロー!)。大谷翔平をどう思うかと聞かれて、「このオフ、僕がずっと思っていたのは、(自分の)名前も年齢も出身地も容姿も、全部変えて、違う選手としてもう一度、翔平と新人王を争いたいってことなんです。(中略)僕は年齢不詳、国籍不明のマスクマン」なんて。よく、オリンピックで日本の選手が大活躍なんかすると、「元気をもらった」なんてひとは言うが、そんなものは一過性のものに過ぎないはずで、でも、言葉は長く心に残り、元気の源になる。前回書いたブルトンの言葉のように。いかにどう励まされたかについては改めて書くことにして、わき道に逸れるのはここまで。

「竹内銃一郎戯曲集2」(而立書房)に収められている「食卓㊙法 ~」は、約60頁。冒頭のト書きが面白いが、長いので省略。うなぎ壱、弐が自室にパネルを運び込み、それを壁に打ち付けるべく金槌をふるっているところから始まる。ふたりの短い台詞のやりとりが約18頁続く。時に仕事の手を止めるが、基本的にはずっと金槌をふるっている。会話の主たる中身は仕事を終えたあとの食事のこと。その話の間に、なぜ部屋にパネルを? という疑問への回答が小出しにされる(上手い!)。要するに、今夜もやって来るであろう<笑い男>を部屋に入れないために、ふたりはバリケード作りに励んでいるのだ。ようやく仕事のカタがつき、うなぎ弐「ホッとひと息、どうやら今夜は久しぶりにふたりだけの夕食になりそうだな」と、ふたりは顔を見合わせ、クククと笑い、「鳩ぽっぽ」を歌い出し、踊りだすと、突如、鉄壁と思われた壁をつき破って、噂の男が飛び出してくる。彼はひとしきり笑ったあとで、「人間(ひと)はなぜ笑うのだろう?」から始まる長台詞を河が流れるがごとく滔々と語りだす。

 

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