樹木希林に関するあれこれ2018.09.17
現在のこの国ではいまや絶滅危惧種ともいうべき「名優」のひとり、樹木希林が亡くなった。今朝のモーニングショーで昔の写真を見たが、若い頃は結構可愛くて、少し驚いた。あの話は本当だったのだ。
時代は半世紀ほど前に遡る。当時親しかった、わたしよりひとつ年下の女性によれば、彼女のお姉さんと同じ女子高生だった樹木希林(当時の芸名は悠木千帆)が、文化祭になると男役を演じて、みんなのハートを鷲掴みにしてたというのだ。その話を聞いた時にはもう老け役をやっていて、だからもうひとつ納得しかねたのだ。あんな不細工が女の子たちの憧れに? と。50年経ってやっと納得。
樹木希林と夫・内田裕也の40年にわたる別居は有名な話だが、かくいうわたしも30数年の長きにわたって「奥さん」と別居を続けていたので、彼ら夫婦の動向にはずっと関心を持っていた。
ウィキを見ると、90年代頃から毎年のように、日本アカデミー賞を始めとする様々な映画賞の主演女優賞、助演女優賞にノミネートされ、受賞数は20を超えている。この事実は、彼女の女優としての実力云々とは別に、繰り返しになるが、この国ではいまや名優が絶滅危惧種であることの証である。
確か以前にも書いたような気がするが。映画「悪人」で彼女は日本アカデミー賞の助演女優賞を受賞しているのだが、わたしには<それほどの演技>とは思えず、それは映画自体がそれほどのものではなかったからそう思ったのだろう。名優が絶滅危惧種になっているのは、俳優個々の問題というより、これもまたこれまで繰り返し書いていることだが、彼らが置かれている<刺激のない>環境に問題があるのだ。樹木希林クラスの俳優にNG出すような映画監督など、この国にはもういないだろう。ひとは誰でも、水と同様、低い方へと流れるのだ。アノ北野武は、わたしの名優リストに載っているひとりだが、彼を演出できる監督は彼しかいないのだから、彼にはもうノビシロがない。哀れなり。
わたしは別に樹木希林のファンというわけではないから、彼女の出演作を見た数は限られているが、もっとも記憶に残っているのは、数か月前に見たNHK制作のTVドラマ、「夢千代日記」だ。さびれた田舎の温泉街の芸者役。基本的にはコメディ・リリーフと言っていい役どころだが、その言動の一つ一つが実に鮮やか。物語が哀しみに包まれそうになると笑いで盛り上げ、しかし、その懸命な姿勢が彼女が抱える孤独・さみしさを浮かび上がらせて、見る者の胸を打つのである。
今日は敬老の日。老人を敬う? いまや70、80は当たり前、90過ぎも珍しくなくなっているご時世である、あと約一か月で71歳になるわたしなど、敬いの対象にはなるまい。と考えると、樹木希林の75歳の逝去は、いかにも早すぎると言えよう。合掌。