これが号泣だ! 錦ちゃんの「関の弥太っぺ」は完璧だ2010.09.14
虫が鳴いている。夏の暑さもどうやら峠を越したようだ。
秋はひと恋しい季節。そんな秋の夜長にお薦めなのがこれ。「関の弥太っぺ」主演萬屋錦之介 監督山下耕作 原作長谷川伸。 次から次へと名台詞名場面が繰り出される、知るひとぞ知る傑作だ。
ただ事とは思えない名場面をひとつ紹介しよう。
旅人(やくざ)の主人公は、幼いころ別れてしまった、たったひとりの肉親である妹を探している。ようやくある宿場で女郎をやっているという噂を頼りに、探りあてる。が…
部屋のというより、画面の端っこにぽつんと、妹の姉さん格だった女郎と主人公。亡くなった妹の思い出を語っている女の傍らで、男は俯いて酒を飲んでる。かなりの長台詞。カメラはゆっくりと二人に近づいていく。
男が俺のことはなにか話してなかったかと聞くと、何度聞かされたか分からない、まるで好いた男みたいに話してたと女は語る。と、男は文字通り堰を切ったように号泣する…
いい映画は全てが詰まってる。子供、老人、若者、小動物、花、森、山、川、雨、青空、夕焼け等々、この世の森羅万象が、それも同じ大きさ重さで。
啜り泣くような弦をメインにした音楽は素晴らしく、キャスティングも完璧。久しぶりに見て改めて感心したのは、台詞もなく、顔さえ定かではない端役の人々がきちんと芝居をしてること。この事実で明らかなように、画面の細部に至るまで、まったく手抜きがないのだ。これこそ、スタッフから大部屋の俳優まで丸抱えしてた撮影所のみがなしえた技で、決して優れた個人の産物ではないのだ。「ウ゛ィヨンの妻」を見たあとだから、改めて〈その違い〉を実感してしまった。歎いたところで今更どうにもならぬが。