竹内銃一郎のキノG語録

樹木稀林=危機麒麟?!2011.07.06

根拠のない〈常識〉ほど手強いものはない。いや、正確に言うならば、根拠のない〈常識〉を信じてしまっている人間ほど始末に悪いものはない。
15年ほど前になるのか。今度のドラボ公演に出演してもらう、保や原さん、それから、今では同僚となっている水沼さんも出演したお芝居がありまして。
原さんの話では、そのオーディションには300人の応募があったとのことですが、その芝居のいわば主役をやった、奈良女子大の演劇サークルに所属していた女の子が、大学のサークルに戻って芝居をやることになったら、出番の少ない端役にさせられら、と。その主な理由は、「台詞が棒読みだから」だったとのこと。 これ、結構言いますね。
なぜ棒読みはいけないと考えるのか。
台詞って抑揚をつけないといけない。メリハリが大事、と言うのは常識でしょ、と信じて疑わないからです。

 
一ヶ月くらい前に、テレビで凄い話を聞いてしまった。
凄い話をしたのは樹木稀林。いま上映されてる、まえだまえだが主演の映画の番宣だったのですが。
監督の是枝氏が、子役たちに前日台本を渡さなかったのは偉いと彼女は言う。
監督いわく、渡すと家で親が変な芝居をつけ、おかしな物言いをさせるからだ、と。
こういう話があるのよ、と麒麟女史。落語家の米朝(人間国宝!)の息子が映画に出ることになったと父親に報告に行くと、「ちょっと稽古をつけたるさかい、台詞言うてみぃ」と言うので、息子は台詞を言う。
すると人間国宝氏、違う、この言葉立てんかい、そうやない云々と、まあ手取り足取りして、翌日の本番。監督、息子の台詞回しに頭を抱えた。抑揚だらけで、およそ普段の日常では聞いたことのない物言いになっていたとか。
多分、関西発の番組で米朝をこんなにコケにしたら、この部分カットされてたと思うけど。 麒麟女史に敵なしだなあと関心したわけです。

なんでこんな非常識な〈常識〉が未だにまかり通っているのか、その原因究明はまた改めて。 ところで、前述したお芝居、アイホール制作の「みず色の空、そら色の水」で主役を演じた西山さん、いまはどこでどうしているのでしょう?

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