竹内銃一郎のキノG語録

女じゃダメなのか 「嘘つきまーくんとナンチャラ」という映画2012.02.27

夜。スポーツニュースで沢村と藤岡の投げあいの結果を知るべくテレビをつけたら、昨日の沖縄は雨降りだったらしく、ジャイアンツとマリーンズのオープン戦が中止。なんだよーとWOWOWに切り替えたら映画をやっていて、それが意外に面白くついつい最後まで見てしまう。
「瞳の奥の秘密」。去年だか一昨年だか、アカデミー賞の外国部門で最優秀賞に選ばれたらしい。なるほど、うまく出来てるわけだ。
主人公は、元裁判所で働いてた男。途中から見たのではっきりしないが、検事でもないらしい。その彼が、25年ぶりに、元の職場に顔を出す。そこには、かっての上司で、愛してもいた女性が今でも働いている。
彼はいま小説を書こうといていて、それは25年前、彼が手がけていまだに忘れられない殺人事件を題材にしたものだ。
映画は、現在と25年前、あるいは、現実とフィクションの間を行ったり来たりしながら進行する。
見ていて、ボン・ジュノの「殺人の追憶」に似ていると思う。「殺人…」は、軍事政権化の韓国が舞台だが、こちらも、時代は70年代半ばと10年ほどの違いはあるが、同じく軍事政権下のアルゼンチン。犯人を追い詰めていく感触に、近いものを感じた。
「殺人の記憶」を見た時のショックはいまでも忘れない。
「瞳…」にも、母親への手紙から犯人とみなしている男がサッカーファンであることを突き止め、サッカー場に行くと、やっぱり彼がいて …という見事な場面があった。
が、物語の展開が終盤に向かってどんどん散文化していく「殺人…」とは違い、こちらは、ありがちなアメリカンメロドラマに収斂してしまうのが、まあ、ほっとはするけれど、物足りないといえば物足りず ……
でも、どうしてこのレベルの映画が日本で作られないのだろう?
比べるのもどうかと思うが、「満ちる」で満ちる役をやっている山田キヌオさんが出ているというので、「嘘つきまーくんとナンチャラ」という映画を見たら、というか実は半分しか見なかったんだけど、もうホント子供だましみたいな映画で。いや、明らかに若い人向けに作っているんだろうけど、こんなものに騙されないだろう、フツーの子供なら。
とにかく、トロイ。始めの5分ほどのトロサといったら! なぜトロクなるのかといえば、優柔不断で決断がなかなか出来ないからというより、なにを撮ったらいいのか、撮りたいのかかがよく分からないからじゃないだろうか。だから不必要な説明をダラダラ撮っている。
ずっと腹にすえかねているから敵が出来るのを承知で書くが、日本には、女性映画監督にろくなのがいない。
この映画でも、例えば中学だか高校だかの教室にいる生徒たち、美男美女揃いで区別がつかない。ということは、マジメにキャスティングしてないってことでもあるし、主人公たちと対比しながらひとりひとりにささやかでも物語を与えてやろうという気がないのだ。これ、フツー、手抜きっていう。
以前にも、西川美和の映画について同じことを書いたが、ジョン・フォードやH・ホークスが、たとえば酒場にたむろしてる客たちを、どのように撮ってるか、少しは考えたことあるのかな、この監督。

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