竹内銃一郎のキノG語録

準パーフェクトと節穴 新藤兼人、死す2012.05.31

毎週開催しているドラボ映画鑑賞会。昨日は溝口健二の「近松物語」。
これまで5度や6度は見ているはずなのに、南田洋子演じるお玉のことを忘れてしまっていた。おさんと茂兵衛の道行きももっと長いと思っていたが、それほどでもなく。
バカなのか、わたしは。それとも目の位置にあるものはただの節穴?
多分、20回は見ている鈴木清順の「東京流れ者」や、30回以上見ている小津の「東京物語」、山下耕作の「関の弥太っぺ」は細部まで完璧に覚えているのだが。
お玉を忘れ、道行の長さを勘違いしていたのは、強烈に刺激する幾つかのシーンのせいではないか。何度見ても、幾度か繰り返されるふたりの抱擁シーンは、日本映画にあるまじき熱さ激しさだ。とにかく濃い。
家に帰ると、ふたつのニュースが飛び込んでくる。新藤兼人の死と巨人杉内の準パーフェクト。ま、野田と小澤の会談なんてのもありましたが。
くしくも、新藤はシナリオライターの初期、溝口映画のシナリオを書き、また、溝口に関する関係者の証言を集めた本を書き、ドキュメンタリー映画も撮っている。偶然って面白い。
相変わらず、マスコミはいい加減な情報を流している。報道Sでは、新藤を反戦・反核の映画監督だとし、古館のバックには「原爆の子」のポスターが貼られていた。
確かに、その種の映画も幾本か撮ってはいるが、虚心に彼のフィルモグラフィを確認すれば、新藤作品の大きな柱はセックス・エロスであることは疑いようがない。多分、古館も含め、番組関係者一同、新藤の映画などまともに見たことなどないのだろう。こういう状況下だから「反戦・反核」でというのは、いかにも安直かつ事大主義的で、二重三重に、死者に失礼であるように思われる。
新藤映画は10本を超えるほど見ているはずだが、近年の作で見たのは、柄本さんが主演したナンチャラって学校の名をタイトルをしたものくらい。面白いと思ったのは、「弱虫男と強虫女」という変なタイトルの映画くらいか。といって、ストーリーどころか出演者もまったく覚えていない。ひどいものだ。
長生きも芸のうちって言葉があるが、新藤はただ長生きしただけじゃなく、100歳まで現役だったというのが、100という区切りのよさともども、恐れ入ってしまう。
区切りがいいってことで言えば、小津安二郎ってひとは、亡くなった日が、60回目の誕生日、つまり、還暦を迎える、0歳に還るその日だったって言いますからね。生涯の完璧さっていう点でも、やっぱり新藤よりも小津って話で。ま、比べるのもなんなんですが。
新聞に関係者の言葉が寄せられていた。柄本さんは、新藤のシナリオライターとしての偉大さをもっと評価すべきだと語っていたが、詮索好きのわたしは、監督としてはさほどでもないと言いたいのではないかと、その裏を読んでしまう。
中で、これが一番と思ったのは若松孝二のコメントで、口をあけて仕事のお呼びがかかるのを待ってるだけの監督が多い中、新藤は自分で金を集めて何本も撮った、そこが偉い、というもの。もちろん、その言葉の中には、同様の選択をしている自分の苦労も語られているわけだけれど。
なんで自分に仕事が来ない? なんで俺の才能を世間は分からない? なんて愚痴をこぼしながら安酒をかっくらって、結局は漫然の日々を過ごしているだけのヤツ、最低だな。
巨人の杉内、27人目のバッターに四球を与えてパーフェクトを逃したわけだが。
準パーフェクトと言えば、この間のダービーの、わたしの予想です。
前日から、ワールドエース、ディープブリランテ、フェノーメノの三つ巴だと思っていたが、当日のパドックでは、ディープとフェノーメノは、特Aの出来で、以下、ワールドエース、グランデッツア、トーセンホマレボシ、コスモオオゾラが、わたしのA評価。
結果はご存知のように(?)、ディープが1着でフェノーメノがハナ差の2着で3着はトーセン。ワールドが3着に来たらパーフェクト予想だったのに。更に、6着に入ったコスモ。レース中に故障したらしく、それがなければ3着はあったかも。そしたら3連複、大穴ゲット出来たのにぃ。
ま、馬券は取ったんですけどね、連単と3連複をガッチリ。
ダービーがあった日曜からもう4日目なのに、あれこれ思い出すといまだに笑いが止まらない。ワッハハ。

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