竹内銃一郎のキノG語録

闘う子ども達 「フィッシュタンク」と「つづりかた兄妹」2013.06.06

若松孝二の映画「三島由紀夫」は力作だったが、もちろん力作=傑作とは限らない。
シナリオがよろしくないのだと思う。どこにピントが当たっているのか分からない。三島なのか、副題にもあるように、彼の周りにいた若者たちなのかが。三島によりウェイトを置くのなら、作家活動にも触れる必要があっただろうし、若者達にウェイトを置くなら彼らの性的なるものがどうだったのかくらいは描くのが当たり前だろう。結局、関連図書を2、3冊も読めば誰もが入手できる事柄しか描かれていない。
いろいろ裏事情もあろうが、寺島しのぶ演じる三島夫人の物語の中の立ち位置がまったく分からない。必要だったのか。必要ならこれももう少し三島とのふたりだけのシーンをじっくり見せるべきだったはず。
なぜ三島があれほど思いつめ、追い詰められ、自衛隊の駐屯所に乗り込んでいったのか、結局分からないし(理屈はともかく映画的に)、そもそも三島といえば同性愛者なのに、その空気感がほとんど伝わってこないのはいかがなものか。関係者に配慮した? 若松孝二=スキャンダリストともあろう者がなぜ?
三島役の井浦新も頑張っていたけど、彼がどうこうというよりやっぱりシナリオかな、わたしが知ってる三島とほど遠く …。それこそ、三島=スキャンダリストでしょ。そういう匂いがまったくしなくて。マジメだよねとからかいたくなるような …。三島といえば、バカみたいなわざとらしい高笑いでしょ。
園子温「ヒミズ」も同じような感想をもった。震災後の福島が舞台になってるんだけど。写された風景ともども、テレビで何度も見たなといった代物で、また主役のふたりの主人公、ともに15歳で、元気に振舞ってる女の子と、表情をなくした男の子というキャラクター設定も、更には、劣悪な環境の中でもそれまでの日常とさほど変わりなく(表面的には)、明るく振舞ってるおじさんおばさんたち、というのもあきれるほどに退屈な構図だ。
同じ15歳の少女の物語、「フィッシュタンク」とは月とすっぽんだ。園ってひとも力を入れれば傑作が出来ると思ってるんじゃないか?
その「フィッシュタンク」。
前に書いたケン・ローチ「天使の分け前」と同様、舞台はイギリスの小都市で、彼女が住んでる環境は底なしといっていいほど劣悪だ。
父親はいない。母親は酒に溺れ、毎日のように似たような連中を家に呼んでパーティを開いてる。
彼女には小学校低学年(推定)の妹がいるが、彼女もまた母親たちと同様、酒を飲みたばこを吸ってる。もちろん15歳の少女も。
ある日、男が彼女達の家に来て、同居するようになる。母親の恋人だ。彼の車でドライブすることになる。
そんなことは子供達も初めてのようだ。車中で男が音楽を流す。母親が「変な趣味ね」といわれたその曲は、「夢のカルフォルニア」(ママス&パパスのじゃない)で、この曲がこれ以後、物語の中で大きな役割を担う。こういうところで、ああ、シナリオがいいなと思う。
少女はダンスが好きで、でも友達がいないからいつもひとりで踊ってる。ある日、ダンサー募集のチラシを見て、応募しようと思い、「夢のカルフォルニア」で踊ることにする。ってことは、母親の愛人のことが好きになったってことですな。で、当然のように紆余曲折ありながら、ラスト、彼女はその町を出て行くことになるわけですが、その紆余曲折の曲がり方折れ具合がまことに繊細で感心。そして当然のことながら、ささいなエピソードでさえも、常にスリルとサスペンスをともないながら描かれる。ここらへんが、シナリオの違いもさることながら、先に挙げた2本の日本映画と大きな違い。
久松静児「つづりかた兄妹」。子供の頃、小学校の映画鑑賞会で見たはずだが、もちろん記憶は見たという以外は皆無。どうせお涙頂戴ものでしょとタカをくくって観ていたら、これがなかなかの出来映えで。
1950年代(?)の枚方が舞台。メチャメチャ、今では嘘でしょといいたくなるような貧乏な家に6人の子供がいて、小・中学に通ってる上の3人はそろって作文がうまく、いろんなところに応募して何度も入選、家にはその賞品であるラジオだの勉強机だのいっぱいある。この手の話にはよくあるのだが、父親は腕のある職人なのだが、ろくに働かないで酒を飲み、飲めば女房を殴ったりするロクでなし。一方、母親はにもかかわらず毎日家のためにせっせと働いてる、みたいな。
子役達がいい。まあ、時代が違うわけだから単純に比較するのもアレだけど、最近のこましゃくれた子役達と違って、顔云々ではなく存在自体が可愛い、健気で。学校の先生役が香川京子。文句なし!
最後はやっぱり涙涙で、わたしも泣いてしまったけれど、後味がとてもよろしい。これ、モデルがあるんだけど、どこまでホントだろう? 最後に物語の中心になってる小学生の次男が病気で亡くなるんだけど、これが本当だとしたら、相当可哀そうです。ほんと、泣いちゃう。
そうだ。「フィッシュタンク」の小学生の妹のことを書かねば。凄い芝居をしてる。芝居とは思えない。日本の子役達のように大人の愛玩物じゃないんですよ。いつも目が据わってるし。だけど、可愛い。この子も最後に泣かせやがる。まいった。

一覧