竹内銃一郎のキノG語録

訃報 すまさんが亡くなった2013.12.09

昨日、松本くんからすまさんが亡くなったとの連絡あり。一週間ほど前に、松本くんからすまさん、相当悪いらしいというメールを貰っていた。
すまさん。すまけいさん。今年の3月、わたしが台本を書いたMODE公演「満ちる」(松本修 演出)に主演。脳梗塞でしばらく休んでおられ、朗読劇なるものを年に一、二度やっておられたようだが、これが何年ぶりかの舞台出演だった。
すまさんと初めて接触したのは、もう30年ほども前になるのか。もっとも、この時は直接お目にかかったわけではないのだけれど。
劇評家村井健の誘いがあって、俳優の小田豊、豊川潤と「桃の会」なるものを結成。旗揚げ公演に、小田か豊川だかが、ふたり芝居なら、イヨネスコの「椅子」はどうかと提案し、どちらかが、すまさんがその昔、「椅子」を翻案してやってるから、その時の台本を貸してもらったらどうか、と。で、お願いしたら、台本なんていったってマトモなものじゃないし、竹内さんがおやりになるのなら、自分でお書きになったらどうかと言われ、ならばと書いたのが、「今は昔、栄養映画館」。
それから10年ほど経って。木場勝己から、その「今は昔、…」を上演したいと連絡があり、その時点ですまさんの名が挙がっていたのかどうか定かではないが、すまさんがお出になるのなら、とその演出を引き受けたのだった。
名優の条件として、三つの<チ性>が必要、というのはわたしの持論で、即ち、知性、稚性、痴性である。
知性とは、物事を論理的に考えられるということ。
稚性のチは幼稚のチで、幼心を持っているということ。
痴性のチは、イレギュラー、つまり、なにをするか分からない、犯罪者の匂いがするということ。
砕いて言うと、頭がよくて、可愛くて、怖いひと、ということになります。
で、すまさんはまさにそういう俳優さんでした。
演出してるとき、そこはこんな風にとわたしが注文を出すと、「またバカなことを」とか「竹内さん、あんた俺をどうしたいの?」とか言いながら、軽々と演じてくれるのでしたが、芝居途中で吹き出したりして、その時のいたずら小僧のようなチャーミングな笑顔が忘れられません。
このあとしばらくして、癌で入院。それからまた何年か後に、前述した脳梗塞になられ、今回の訃報に。
確か、以前にも書いたはずですが、わたしに接触した後に、大病になられたり、亡くなられたひとが結構多いのです。そんなにストレスを与えた自覚はないのですが。ああ、罪深きわが人生 …
最高のすまさんが見られるのは、映画「光る女」。闇の組織の頭目で、大きな権力を持っているのはもちろんだが、男のわたしでさえゾクッとするほどの色気を撒き散らす。おまけに強いのなんの。だって、あのプロレスラーの武藤とガチ(に見える)で闘うんだから!
あんな役が出来る俳優、外人ならいそうだが、日本人ではすまさん以外思いつかない。
ああ、この映画の監督、相米慎二も亡くなりましたねえ …
ご冥福を祈りつつ、合掌。

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