竹内銃一郎のキノG語録

かき揚げと若木さんと「パン屋航路」と2017.06.13

猛スピードで時間が駆け抜けていく。このブログも前回から少し間が空いたかなと思ったら、一週間ぶりだとは?! 一方で。物忘れが激しくなっている。先々の予定は携帯等のカレンダーに書いておくからまだしも、単語が思うように出てこない。昨日も、「かき揚げ」がなかなか出てこないので困った。もちろん、それで生活に支障をきたすほどのことはなかったのだが。

この、時の流れを速い、速すぎると感じる感覚と物忘れの激しさとの間には、なにか相関関係があるような気がするが、どうなんだろう? ドンドン記憶が薄れていく=脳が身軽になる=時間が速く流れているように感じる、という具合に …? いや、逆に。そもそも記憶は時間とともにあり、時間の流れる速度は若い頃となんら変わることがないのに、心身の老いがそのスピードについていけず、時間とともに遠ざかる記憶から置きざり状態になっているのか …?

昨日、「のっぴきならない遊動」を見に行く。芝居ではなく美術展である。月・火は欠かさず見ている、朝のTV番組「よ~いドン!」の「隣の人間国宝さん」のコーナーで紹介されていた若木くるみさんが面白く、これはどんなひと? と思ってPCで検索したら、いま、黒宮さん、二藤さんというひとたちと京都芸術センターで「三人展」をやっていることが分かり、忘れぬうちにと散歩がてら早速出かけたのだ。

若木さんは、自分の後頭部を剃り上げ、そこに<笑える似顔絵>を描く、それが彼女の作品なのだ。こう書くと、知らない人は、ただ奇をてらってる変わり者でしょ、そうやって目立って有名になって、お金儲けに繋げたいわけでしょ、と思うかもしれないが、さにあらず。時には後頭部だけでなく、側頭部にも体全体にも描く、キャンバスは自分の体なので作品を残せないのが …と笑いながら語っていた。だから、展示されていた「作品」も、彼女が出演したTV番組と、彼女と彼女の友人とが鯖の衣装をつけて77キロの「鯖街道」を走っている動画しかなく、正直、少々がっかりはしたが、しかし、これが彼女が選んだ表現スタイルなのだ。確かに、「変人」として有名になるかも知れないが、お金と交換しうる作品=現物がないのだ。いや、作品=現物として自らの身体を直に差し出しているのだ、たくまざるユーモアとともに。凄いなあ、若木さん。

忘れてしまうのは、そのモノに記憶を留めおく力がないからだろう。先週、四年ぶりに尾道へ出かけ、宿泊した「尾道みなと館」に大満足。多分、このホテルのことはしばらく忘れることはないはずだが、もうひとつ、長く記憶に留まるであろうはずの場所があり、それは、タイトルにある「パン屋航路」というパン屋さん。四年前にもここでパンを買い、おいしいと思ったのでまた出かけたのだが、ただおいしいだけのパン屋ならあちらにもこちらにもあって、早晩忘れてしまうだろう、しかし、この店の名前がそれを許さない。「パン屋航路」。多くのひとは、若木さんの場合と同様、ただ奇をてらってるだけでしょと思うかもしれないが、さにあらず。わたしも今回やっとその命名の由来を解くことが出来たのだが。以下がその謎を解くヒントです。

尾道にはかの志賀直哉が一時期住んでいたことがあります。彼の代表作と言えば?

 

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