竹内銃一郎のキノG語録

声のエナジー  「花ノ紋」を終えて(訂正版)2017.12.05

「花ノ紋」が終わってこの一週間、とりあえず「お芝居」はほったらかしにしてテレビ漬けの毎日。

M1の結果に唖然とした。和牛の完封勝利間違いなしと思ったら、クスリとも笑えず不快でさえあったサーモンが優勝。なにかウラがあるのではないか? なんだか分からないけれど。はっきりしているのは、審査員のひとり、渡辺正行が総得点の調整役になっていたことで、なぜそう思ったかというと、わたしが和牛とともに優勝候補と見ていた「かまいたち」に考えられない低い点をつけていたからだ。ま、こんなこと、日馬富士の暴行事件をめぐるワイドショー等での議論と同様、ド~~~デモいいことですが。

感銘を受けたのは、NHKBSのプレミアムカフェで再放送された「世界里山紀行 ポーランド 水辺に響きあういのち」だ。ポーランドの北東部にあるらしい湿地帯を舞台に、四季の移ろいとともに変化していく湿地の様相を核にして、人々の暮らし、草や樹木、鳥や昆虫や牛等々の動植物の生態を一年かけて描いたもの。まさに「動植綵絵」。この生態リズムは1000年の昔からなにも変わっていないというので、さらに驚きそして感動する。そして、あまりに美しい映像にも。てっきり海外で作られたものだと思っていたら、なんとNHKの制作だというからこれにもびっくり。冬の間凍り付いていた湿地帯が、春を迎えるとともにゆっくりと溶け出し、そして、アフリカからこうの鳥がやってくる。川には約100種類の水鳥たち。う~ん。わたしのようなぐーたらにはこんなところでの厳しい生活など出来ようはずもないが、やっぱり憧れてしまう。

今朝、録画しておいた「たけしのこれがホントの日本芸能史」を見る、これもNHKBS。毎度見られる懐かしの映像は嬉しいが、合間のおしゃべりがイマイチ。中心でまわすたけしの話には間違いが多く(加齢からくる記憶違い?)、退屈なのだ。ディレクター、プロデューサー等もおそらく若くて、昔のことをあまり知らないのだろう。いや、知ってはいても、大御所の間違いを指摘できないのかもしれないが。最後に東京03が演じた、昔懐かしいコント「最後の伝令」の詰らなかったこと!!

もっとも感心したのは、これもNHKBSの「奇跡のレッスン」。毎度、世界的な指導者が若いひとたちを相手にスポーツや芸能ごとの基礎を教える番組で、初めて見た今回の指導者は、前回のラグビーワールドカップでジャパン・HCだったエディ・ジョーンズ。教える相手は、かっては高校ラグビー界のトップに位置していたが、このところは低迷が続く東京の目黒高校ラグビー部員。エディの指導はとても分かりやすい。例えば。パスを出したら、出し手は受け手の背番号が見える位置に素早く移動せよ、と言うのだ。パスはボールを持っている自分より後方にいる味方にしか出来ない、というのはラグビーの基本中の基本だが、チームの中心であるらしい選手が、パスを出したあとふらっと前に走ったので、プレーを止めて、全員にこれを話したのだった。彼が前に行ったら、パスの選択肢がひとつ減って、相手は守備が楽になるからだ。「背番号が見える位置へ」というのがいいのだ。これなら小学生にも分かるはず。上記した、M1の審査員たちも、「これがホントの~」の出演者たちも、こういう論理的でありながら平明かつ新鮮な言葉で、漫才や喜劇について話が出来ない。

今回のタイトルは、この番組で繰り返し言っていたエディの言葉だ。試合中にもっとお互いに声を出せ。ただ声を出すのではなく、「ここにいる自分にボールを回せ」等々の意味ある言葉を、正確に味方に伝えろと言うのだ。おっしゃる通りデス。演劇界では、おそらくいまだに発声練習だといって「あいうえおあお」だの「あめんぼあかいなあいうえお」などとやってる人々が少なからずいるはずだが、そんな無意味な言葉を日常的に発語していたら、実際の舞台での発語は間違いなく、エナジーの薄いものになるはずだ。台詞は常に、どこにいる誰になにを伝えるのか、標的を定めて発せられなければならないのだから。

さあ、今週から連続上演の第三弾「チェーホフ流」の稽古が始まる。次から、前回に続いての「チェーホフ流 解題」をば連載いたしますル。

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