竹内銃一郎のキノG語録

東京大仏に<性の極み>を見た。 「耳ノ鍵」解題④  2018.01.30

1/18分にも書いたが、「東京大仏心中」は、小津の「晩春」をベースに書いたものだ。「晩春」は、長くふたり暮らしをしてきた父と娘の話であるが、「東京大仏心中」もそれを踏襲している。娘の結婚話がまとまり、ふたりが「お別れ」の旅行に出かけるという設定もそのままだが、あちらは鎌倉から京都へ、こちらは函館から東京へと、旅行先が違っている。京都旅行の最後の夜。蒲団が敷かれた旅館の一室で、原節子演じる娘は、「お父さんとこのままいたい、どこへも行きたくない」と、笠智衆演じる父に驚くべき告白をする。この映画のハイライトとも言うべきシーンだが、「東京大仏心中」は、ざっくり言ってしまえば、映画では10分足らずのこのシーンを100分ほどに引き伸ばしたものである。

東京国際演劇祭の事務局から、演劇評論家の七字英輔を経由して、「東京を題材にした新作を」という依頼を受けた時、真っ先に頭に浮かんだのは「東京大仏」だった。大仏の前で男女ふたりが延々エッチな話をする、というのが最初のアイデアで。なぜそんな不埒なことを思いついたのかというと、東京大仏を初めてみたとき、畏敬の念とともに見上げた奈良や鎌倉のそれとは違って、我々のような下々の者に近い親しみを感じたから、というときれいごとに過ぎますな、はっきり言おう、黒光りしているそのお姿に<性の極み>を感じてしまったわけです、それで …。さっきウィキで確認したら1977年に建立とあったから、わたしが見たのはおそらく出来て間もない頃で、そりゃ、千年以上の年輪を重ねている奈良さんや鎌倉さんと比べては …

SEX未経験者である高校生の男女が、ああでもないこうでもないと延々SEX論議をする。いや、どちらかは高校生だがもう一方は教師で、高校生は教師にあれこれSEXについて質問し、それに対して教師はもっともらしい答えで応じるのだが、実はこちらもやっぱり未経験者で、議論がとんでもない方向に走り出し …。等々、あれこれ考えているうちに、舞台設定を大仏の前より、大仏の胎内にした方がと思いつき、更に、胎内よりも耳の中にすれば妄想が広がるぞ、と …。ここまで来ても高校生という設定を捨てきれず、北海道から東京へ修学旅行に来た男女がとあれこれ考えているうちに、いや、妻を亡くしたばかりの父を元気づけるべく、息子夫婦が東京旅行に誘う、家族の話にしてはどうかと再度の方向転換。日中、息子に仕事が入り、父は息子の嫁と東京大仏見物に行き、胎内巡りをするが出口が分からなくなり、息子に助けを求めるがなぜか電話がつながらず、ふたりは焦燥のときを過ごすうち …。と試行錯誤を重ねた結果、「晩春」に行き着いて …  (この稿、続く)

 

 

 

 

 

 

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