竹内銃一郎のキノG語録

「あ・うん」から「恋愛日記」へ2018.11.06

この十日ばかりの間に、「恋愛日記」の上演申し込みが2件届く。もっとも、ひとつは1984年に上演したもの、もう一本はその2年後に、「恋愛日記 86’春」というタイトルで上演した改訂版だが。この数年、上演申し込み作品のほとんどは少人数の演目だったのに、どういう風向き? かと。久しぶりに本にざっと目を通して驚く。なんと、このブログで前回、前々回と取り上げたTVドラマ「あ・うん」に似ているではないか。「恋愛日記」も、男同士の親友ふたりに、一方の男の奥さんが絡む微妙な三角関係を軸にしたお話なのだ。いや、正確に言えば、「恋愛日記」の方は、その奥さんの妹と姉の亭主が関係しているから歪んだ三角関係の話であるが。もう30年以上も前の話だから記憶もぼやけているが、「あ・うん」に似ているのは意識的なものではなく、F・トリュフォーの映画から借用したタイトルのもと、どういう話を仕立てたらいいのだろうと七転八倒していたら、頭のどこかに刻まれていた「あ・うん」のような話が、ひょいと浮上してきたのだろう。

もう薄ぼんやりとしか覚えていない「恋愛日記」だが、いまもハッキリ覚えているのは円形脱毛症になったこと。本番が刻々と迫ってきているのに、なかなか書けず、しかし、書けずに公演を中止した「夢みる力。」(1982)の轍を踏んだら、わたしも劇団も終わりだゾという自分自身の声が両耳を襲い、死んでやろうかとも考えていたある日ある時、気がついたら頭の三か所ほどに小さな円形禿げが!! このまま死んだら恥ずかしい! と踏ん張って、なんとか戯曲を書き上げ、公演も無事終わり、やれやれと思った頃にはもうちゃんと毛が生えていて。我ながら、なんてドしぶといヤツと呆れるやら感心するやら …

なんとか書き上げた84年版には多々不満があり、また、若い劇団員を使わねばというお家の事情も手伝って書き上げたのが「~ 86’春」だが、「竹内銃一郎戯曲集4」に収められているものは、「恋愛日記2」とタイトルを変更している。

「あ・うん」は、昭和初期と時代設定されていて、放映された80~81年の時点でも、当然<ひと昔前の話>だったわけだが、その感じは、いま見ても変わらない。つまり、物語の時代設定を数十年前にすれば、いつ・誰が見ても、<ひと昔の話>として同じように受け止められるわけである。と書いたのは。過去の自作の改訂・データ化で繰り返し悩まされているのは、以前にも書いたような気がするが、電話なのである、というか、連絡の方法が時代とともにどんどん変わっていることだ。ここは過去に書かれている通り、家・電でいいのか、それとも現在に寄せて、携帯、メールに変えた方がいいのか、等々。まあ、いまのこの時代を舞台にしていても、登場人物全員が携帯やスマホなどとは無縁に生きていることにすれば、とりあえずなにも問題は生じないのだが。

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