竹内銃一郎のキノG語録

迷い道くねくね  活動の記憶⑩(1980年前半)2020.05.11

なかなか終わりが見えない新型コロナ感染状況。ゴールが見えないと今後の計画が立てられず、いまはいったい何をしたらいいのか、途方にくれる日々だ。というわけで(?)、久しぶりに大江健三郎の「不満足」を読む。

定時制高校生の「僕」と「菊比古」、それに彼らの先輩で高校は中退している鳥(バード)が、主な登場人物。ふたりは退学処分の対象になっていて、処分後、どこにも所属していないと、徴兵されて朝鮮戦争に送られるという噂におびえ、先輩の鳥にバイト先を紹介してもらい …というところから話は始まる。3人で市電に乗って町に出かけるが、肉屋のバイトは嫌だということになり、鳥の知人が働いている精神病院から、脱走した<患者>を探し出す、という仕事を引き受ける。病院の庭にはシェパードが群れをなしている、それは脱走した患者を見つけ出すためにいるのだが、目下脱走中の患者はシェパードを過度に怖がっていて、シェパードに見つけ出されたら、恐怖のあまり自殺するだろうというのである。夜が明けるとシェパードを放つので、3人は夜明け前までに<患者>を探すべく、街のあちこちを巡り歩き、そして …。

約40年ぶりの再読。大和屋さんにシナリオ化を頼まれたということもあろうが、この短編小説はわたしにとっては忘れがたい作品だ。書き終えたシナリオは大和屋さんからお褒めの言葉をいただき、ワタシ的にも満足度が高かったから、この頃の人気TVドラマ「金八先生」に出ていた、鶴見 辰吾、野村義男、古尾谷雅人を主役3人にどうかと、キャスティングの希望も出していたのだが、大江氏から、大島渚が監督した「飼育」以来、自作の映画化は認めていないという返事があって、わたしの夢は幻と消え …。(荒戸源次郎の天象儀館が製作。「不満足」がダメになった後、二転三転し、「愛欲の罠」(田中陽造のシナリオ)を日活配給で公開。ところどころ面白いところあるも、主役を演じた荒戸がドーニモコーニモ。大和屋さんの監督作品としてこれが最後とは、チト寂シイ)

上記のことと岸田戯曲賞落選と、どっちが先だったか覚えていないが、とにかく、それなりに強烈な連続パンチを食らって、これからどうしようと思っていたところに、西村、小出、森川等が、当時わたしが住んでいた赤羽のアパートに、入れ代わり立ち代わりやってきて、「もう一度劇団を」という誘いを繰り返し、さらには、而立書房の桜田さん、三一書房の増田さんから、戯曲集刊行の話もいただいて。これはアチコチで書いたり話したりしたことだが、サン=テグジュペリの小説「夜間飛行」にあった言葉、「人生の中で、他人から自分を必要とされることは滅多にあることではない」(不正確)を思い出し、そんなにわたしを必要と思ってくれるのならそれに応えようと、一度は背を向けた演劇渡世に再度足を踏み入れることにし、その決心が揺らぐことのないよう、映画関係の書籍の大半を古本屋に売ってしまった、なんてことも。

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