竹内銃一郎のキノG語録

本番まで残りあと5日。わたし、なんだか観客になってる?2021.01.22

寒さが遠のいたと思ったら、今日は朝から雨。天の神様の意地悪なこと。今日は稽古、お休み。舞台監督の北村と出演者たちは、セットの最終仕上げのため稽古場に出かけているのだが。

昨日は稽古場をseedboxに移してから初めての通し。稽古場にセットを立て込むなんて、何年ぶりだろう? それもあってか(?)、芝居はいささか空回り。しかし、先月半ばから始まった稽古初期には、出演者5人それぞれに似たような言葉を繰り返し投げかけ、たった数分の場面に小一時間ほどかけていて、いつになったらゴールが見えるかと、わたしは苛立ちよりも焦燥感に苛まれていたから、それを思えば …。昨日は、例えば、そこは「1,2」と数えてから台詞を言ってくれる? とか、具体的な指示にとどめる。あるいは、声がみなうるさすぎるように感じたので、「自分のいちばんでかい声を10として、このシーンのこの台詞は、8に抑えるか、5まで落とすか、各自綿密に考えてほしい。」というようなこと、つまり、彼らの思考を促すヒントのみを伝えたのだ。それにしても。

全員上昇度は高いのだが、中でもふたりの女優は、ともにまだ20代前半と若いだけでなく、女優としてのキャリアも無きに等しいほどだが、よくもここまでと、短期間で驚くほどの成長ぶりを見せてくれている。もしかしたら、稽古初期に話した「広岡(由里子)さんのこと」が彼女たちの刺激になったのかもしれない。それは、以前にこのブログにも書いたような気もするが。

今年の6月に上演する「恋愛日記 86’春」を東京乾電池の若手たちで上演した時のこと。広岡さんが演じた役は、売れない映画監督(オオスギ)の奥さん(キヌ子)だが、その亭主は彼女の妹を愛人としていて、彼は姉妹の住まいを行ったり来たりしている。その亭主には高校時代からの無二の親友(スズキ)がいるのだが、その親友はいつからかキヌ子を愛してしまっていて …と書きだしたら長くなりそうなので、ここでストップ。広岡さんの芝居に驚いたのは、次の場面。スズキはオオスギ不在の彼の家に行き、昔、オオスギに貸した本を返してほしいとキヌ子に伝える。キヌ子はその本を探しに消える。その隙に、オオスギは彼女へのラブレターを電話の下に置いていると、彼女は戻って来るのだが、驚いたのは、戻って来た広岡さんの頭に小麦粉と思しき白い粉がふりかかっているのだ。もちろん、そんな指示がト書きにあるわけではない。わたしは「なんだ、こりゃ?」と驚いたが、すぐに、「ああ、本が置かれている部屋は埃まみれ状態になっていて、髪の白い粉は亭主不在の証拠なのだ。凄い!」とさらに驚いた。つまり、台本に書かれていることから、書かれていないことにまで思考を伸ばしてほしいと今回の出演者たちに伝えたのだ。もちろん(?)、彼女たちが信じられないような演技をするわけではない。けれども、ふたりの激しく怒る場面は、その突発性に驚き、そして笑える。本番まで残りあと5日。更なる上昇を期待して …。わたし、なんだか観客気分になっている。

 

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