竹内銃一郎のキノG語録

神が死んだ! 健さんが亡くなった …2014.11.18

明け方まで島尾敏雄の対談集『平和の中の主戦場』を読んでいた。起きたら12時近くになっていて、テレビをつけると、健さんの訃報がテロップで流れた。

 

5月くらいからか、東映チャンネルで健さん映画特集が組まれ、それを引き継ぐ形で、この3ヶ月ほどは、健さんの代表作とも言われる『日本侠客伝』シリーズ、『昭和残侠伝』シリーズが毎月2本づつ放映され、ともに今月でめでたく終了。もちろん全て欠かさず見たから、この半年ばかりはまさに健さん漬けの日々だった。 以前にも書いたが。健さんが東映をやめてやくざ(映画)の世界から足を洗ってしまった時、なにか裏切られたような気がして、それ以後の健さんの映画は『野生の証明』以外、見ることはなかった。しかし、この半年ばかりの健さん漬け状態の中で、健さんがやくざ映画はもういいよと思ったことがやっと分かった。細部の違いはあれ、健さんは営々と同じ役を演じ続けていたのだ。いくら我慢強い健さんだって、こりゃ疲れるわな嫌になるわな、と。年に一本くらいは、やくざ映画以外の映画に出られたらよかったのだが、おそらく健さん自身もそれを望んでいたはずだが、東映という会社(の事情)がそれを許さなかった。前記の人気シリーズの他に『網走番外地』シリーズがあり、それぞれ年に2本づつあったからこれだけで年に6本。それに、これまた年に2本はあったはずの、いわゆる東映オールスター映画、『緋牡丹博徒』シリーズ等への特別出演を加えれば、もうこれだけで満杯、アリが入れる隙間もなかったのだ。

なんでも関連づけようと思えば関連づけられるのだが。前述の島尾敏雄の対談集を読みながら、健さんが「島尾隊長」をやれば、というアイデアが浮かんだ。島尾は、第二次世界大戦末期、奄美の加計呂麻島で、ひとり乗りのボートに魚雷を乗せて米軍の戦艦に体当たりする、特攻隊の隊長としてその日が来るのを待っていたのだが、その軍人とは思えぬ人柄もあったのだろう、島の人々からは「島の守り神」として敬意を集めていたという。小説「出発は遂に訪れず」等では、その島でのまさに生死の間で宙吊りにされたような日々が、おとぎ話のような島の女性との恋愛とともに描かれている。一度は出撃命令が下されながらそれが中止になり、その数日後に終戦になるという、なんだか映画の中のような出来事があり …。もちろん、健さんが40台の頃ならば、という話だが。島尾が健さんならば、島の女性は誰に? とキャスティングまで考えていて。それがあって、起きたらコレだから、なんだか狐につままれたような具合で …。 12時のNHKニュースで健さんの訃報がトップになっていたが、代表作として「幸福の黄色いハンカチ」が挙げられていたのが、馬鹿らしいというか口惜しいというか。

 

わたしの健さん映画ベスト5(順不動) ①「日本侠客伝 血斗神田祭り」監督マキノ雅弘 ②「網走番外地 望郷篇」監督石井輝男 ③「緋牡丹博徒 花札勝負」監督加藤泰 ④「夜叉」監督降旗康男 ⑤「地獄の掟に明日はない」監督降旗康男

いずれもこのブログで触れたかと思われるが。①は、健さんというより、鶴田浩二と野際陽子のラブシーンが忘れがたい。もちろん、純子さまと健さんのラブシーンも結構。②は、杉浦直樹が演じる殺し屋とのラストの決闘シーンが見もの。③は、特別出演なので、健さんは要所要所しか登場しないが、これがすべて記憶に残る名場面。④は、石田あゆみ演じる奥さんがいながら田中裕子演じる女性と不倫するという、健さんらしくない不道徳な(?)役柄が珍しく、この2人の女に挟まれて黙り込んでる健さんがチャーミングでカッコイイ。⑤は、わたしが健さんと初めて出会った記念碑的映画!

 

と、ここまで書いて、②⑤は、長崎を舞台にした映画であったことに気づく。遺作となった「あなたへ」も舞台は長崎だ。そして島尾も高校は長崎高商で、海兵としての訓練も長崎で受けている。なんという符合だ。

一覧