キャスティングは映画の生命線なのに … 映画「あ・うん」を見る2014.12.02
地上波で放映された、健さんの「あ・うん」と「幸福の黄色いハンカチ」を見る。前者は一度、後者は2度、以前に地上波で放映された際にチャレンジしたことがあったが、途中で見るのをやめたので、全編を通して見るのは今回が初めてだ。途中までというか、ものの10分ほどで見るのをやめたのは、もちろん、これ以上見続けたところで腹立たしさが増すだけだと判断したからだった。
「あ・うん」は、ずっと昔に、NHKのドラマになっている。小説のドラマ化だ思っていたが、ネットで確認したら、ドラマが先にあって小説はそれをもとにして書かれたものであるらしい。
TVドラマをまったくといっていいほど見なくなって久しいが、昔はよく見ていた。今にして思えば、70年代は連続TVドラマの全盛期で、向田邦子が担当したTBSの「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」、NHKの「阿修羅のごとく」等々は毎週欠かさず見ていたはずだ。もちろん、「あ・うん」も。とにかく、優れたシナリオライターが綺羅星の如くいたのだ。「夢千代日記」等の早坂暁、「傷だらけの天使」「港町純情シネマ」「淋しいのはおまえだけじゃない」等の市川森一、「男たちの旅路」「岸辺のアルバム」等の山田太一、「前略おふくろ様」等の倉本聰、などなど。なぜドラマをまったく見なくなったのか、それは分からない。毎週お付き合い出来るほど暇ではなくなったということもあろうし、ある時期を境に、それでも見たいと思わせるドラマがなくなったということだろう。ある時期? 多分それは、バブルに浮かれる世相を反映した、いわゆる「トレンディドラマ」と呼ばれたモノがはびこり出した頃で、年代でいえば80年代半ばに違いない。それはともかく。
映画「あ・うん」である。やはりと言うか、最後まで見続けるのには相当の忍耐を要した。イケナイところを数え上げるときりがない。
手短にストーリーを記そう。兵役で知り合ってそれ以来、無二の親友となったふたりの男がいる。一方は、軍需関係の会社の社長(門倉)で、一方は、ごく平凡な普通のサラリーマン(水田)。映画では健さんが演じた門倉は、坂東英二が演じる水田の奥さん(純子さま!)のことをひそかに愛している、と。要するに、男の友情と禁じられた恋の顛末を描いたお話なのだが …。
日中戦争が間近に迫っているという時代の空気がまったく感じられず、話の運びもチンタラしていてどうにもしまりがない。でも、最悪なのはキャスティングだ。健さんが出る映画は、わたしの知るかぎり、どんなに退屈でも、健さんが登場すると画面の空気が変わって、「これが映画だ」と思わせられるのだが、この映画にはそれがない。健さんが演じる男は、妻はそっちのけで女遊びにうつつをぬかし、その一方で、友人の奥さんに思いを寄せている、対女性という点では、実にルーズな男だが、健さんにはそのルーズさが感じられない。いつもの見慣れた健さんをなぞるように禁欲一辺倒で、この男に間違いなくあるはずの「色気=あやうさ」が感じられないのだ。
純子さまも冴えない。この役は、TVでこの役を演じた吉村実子のように、ちょっと糠味噌臭い、どこにでもいそうなフツーの主婦でなければいけないはずだ。女遊びのはてに行き着いた彼の理想の女性が、見た目はさほどでもないけれど、その振る舞いが可愛くて、家計の切り盛りにも長けている、上級の「フツーの主婦」だった、と。純子さまは、残念ながら、その対極に位置する、言ってしまえば、お座敷に出るような女性にしか見えず、明らかにこの男が思いを寄せるタイプではないのだ。
しかし、許しがたい最悪のミスキャストは、三角関係の要ともいうべき役を演じる坂東英二だが …
続きは次回に。