竹内銃一郎のキノG語録

これがあの問題作、「マダラ姫」だ!2014.12.26

2004年にJIS企画で上演した「マダラ姫」をデータ化しましたので、お読みになりたい方は、REQUESTの方にその旨ご連絡下さい。すぐにお送りいたします。

以前にも書きましたが。上演時、出演された俳優諸兄には「面白い」とすこぶる好評だったのですが、観客・批評家等からはほとんどそんな声は聞かれず、もうヤッテラレンワと、芝居から足を洗う直接のきっかけになった、わたしにとっては最大の「問題作」。

そう云えば、数少ない肯定的評価をしてくれたひとりに、田臥くんという当時3年生の学生がいた。彼が書いた批評は、わたしが担当していた「演劇批評論」の課題レポートで、ここを突かれるとスミマセンというしかないというところを突いた、明晰な論理性をもった素晴らしいものだった。

登場人物は以下の通り。

【登場人物】

斑目あさひ  正午の双子の妹。美術家

吉村公三郎  あさひの婚約者。魚類行動生態学者(自称)

心・平   舞台演出家

さきささき  正午の(元)恋人。女優

米良 哲男  県警のベテラン刑事

桜井 千里  県警の新米刑事

永井つかさ  女子高の演劇部員

小鴨 由香  女子高の演劇部員

斑目 正午  売り出し中の若手劇作家(失踪中?)

公演が間近に迫る中、台本未完のまま姿をくらました斑目正午をめぐって、アナグラムを駆使し、マン・レイの作品を謎解きのキーにした、衒学的な本格的ミステリー風。この「風」というのがミソで、例によって例の如く、「おふざけ風」のやりとりも頻繁にあり、このふたつの「風」が、ただでさえ面倒な謎解きをさらに面倒に、理解困難にしたのかも知れない。と、今度久しぶりに読んでみて思った。

また、この当時もホンの出来上がりが遅く、最後は時間と競争になってしまって、「想像力(=論理性を超えた飛躍)の喚起」などという便利なことばを盾にして、力任せに書いてしまった。ために、これがまた観客の理解を困難にさせているというより、拒絶反応を誘引したのではないかと、今にして思う。

今回、データ化するにあたって、説明不足と思われる箇所には台詞を増やし、混乱を招きかねない箇所は削除した。劇の最後はかなり変わっている。因みに、タイトルは、シャーロック・ホームズの「まだらの紐」をもじったもの。

戯曲の冒頭は以下の通り。

物語の設定は、冬も間近の北国の海辺の、瀟洒な別荘、ということになっている。

が、実際の舞台(装置)は、建設途中で投げ出されてしまったような、稽古場に作られた仮の舞台装置のような、見てはいけないものが剥きだされた、見ようによっては間抜けな感じの、そんな造りになっている(はずだ)。

そう。幕があいたその瞬間に、観客たちが、これから始まる物語の行く末と、登場人物たちの深刻かつ滑稽な振る舞いを予感してしまうような …‥

舞台奥の大きく開かれた窓のむこうに、海が広がっている。

上手側に、玄関・キッチン・バス・トイレ、二階に至る階段が。下手側には書斎があって、そのドアはかたく閉ざされている。

昼下がり。舞台中央にテーブルとソファ。吉村と米良はソファに。米良の背後に立っている桜井は、時々キッチンの方を盗み見ている。

吉 村  いったいこれはどういうことなんだろう、小さなオスはどこにいるんだろう? ほかの岩礁のハレムもいくつか調べてみたんですが、やっぱりどのグループのオスも一尾いるだけで、あとはオスよりもからだの小さいメスばかり。もちろん、一夫多妻の生き物はこの自然界には沢山おりますが、それだって周りにほかのオスがいないわけじゃない。はたして、小さなオスはどこに消えてしまったのか …‥?

米 良  消されるんですか?

吉 村  消される?

 

ご一読願えれば。

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