竹内銃一郎のキノG語録

一見、戸越銀座のお惣菜屋のおばちゃん風。しかして、その実態は?2015.03.02

最近たて続けに二本のスペイン映画を見たのだが、その両方に出ていた女優さんに心奪われる。一本は、飛行機のビジネスクラスの乗客で、未来を予見出来る超能力者。もう一本は、スペインの海辺の田舎町に住み、昼は工場で働き、夜は週二でラジオ・DJをやっている、男運の悪いシングルマザー。ずいぶんかけ離れた役柄のようだが、ともにメンド臭そうな女という点で共通している。実際に会えば印象は変わるのだろうけれど、見た目は、スペインの市場などへ行けばゴロゴロいそうな「おばちゃん風」だが、しかしその、女優らしさを微塵も感じさせない「生活感」が、スクリーンの中で映えるのだ。

このひとは誰? とウィキで調べたら、ロラ・ドゥエニャスというひとで、なんと父親も俳優で、賞も何度か受賞している名優とあり。まさか良血のひとだったとは! なにを今更と思われる方もおられようが、外国の俳優は、いわゆるトップ・スターしか知らないし、そもそも昔から、東洋人も含め外人に関しては、肌色の違いと若い/若くないくらいしか、わたしは判別出来ないし、おまけにカタカナが苦手で名前も覚えられないときている。

ふと、彼女みたいな女優さん、最近の日本にはいないことに気づく。おばちゃん役のひとはいる。泉ピン子みたいな。でも、ロラみたいに、美人ではないけれどチャーミングで色気もあって、どこかおかしい、というひとはいないのではないか。しかし、これは能力の問題というより、多分、需要と供給の問題だろう。日本の女優さんは、舞台はともかく、映像の世界では、一部の例外を除き、40歳を幾つか過ぎたらもう、ほとんどまともな役はないのだ。近所のお喋りな奥さん、みんなに嫌われている通称お局様、場末のバーのホステス等々、誰もが見慣れた「お決まりの芝居」が出来ればそれでいいのだと言わんばかりの。

2本のスペイン映画とは、「アイム・ソー・エキサイテッド!」(監督P・アルモドバル)と「海を飛ぶ夢」(監督A・アメナーバル)。ともにWOWOWで見たのだが、後者は映画の前後に男女3人がこの映画の見所を喋る。スピードワゴンの小沢と、女優であるらしい松岡茉優と、映画監督らしい松沢某が、この余計なお世話を担当する3人。わたしが、こんなことしちゃダメだろうと思ったシーンを、利発そうな顔をした松岡さんが見所として取り上げ、オヤと思わせるような分析を披露して驚く。が、彼女が松沢某氏にそのシーンについての感想を求めると、「映画的」と褒め称えたのにはさらに驚かされた。因みにこのひと、売れない芸人みたいな風貌をしている。

松岡さんって誰? とこれまたウィキで調べると、映画の「桐島 …」に出演していたらしい。まったく記憶にない。ついでに、「さんまのまんま」に出ているというので、ユーチューブで見たら、さんまを相手に気のきいた受け答えをしていて感心する。多分、芝居もお上手なんだろうとも思った。しかし。若くて可愛い女優さんは、いまや押すな押すなの山盛り状態。これも需要と供給の問題なのだろうが、世間ではおばちゃんが幅をきかしているというのに、芸能界はこういうことになってる。皮肉なもんです。

前述の2本の映画については次回に。

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