暑さも吹っ飛ぶ爽快さ H・ホークスの「コンドル」を見る。2015.08.10
劫火を思わせる連日の暑さ。終日、頭がボーっとしていてなにをする気も起きない。こういう時のためにと、これまで見ずにいたウェスの「ライフ・アクアティック」と「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」を見る。相変わらずのウェス・テイストの映画だが、ケレン味が立ちすぎて、イマイチ。ともに、もう少し登場人物を整理すればスッキリ見せることが出来たはずだが、彼としては承知のチャレンジだったのかも知れない。「ムーンライズ・キングダム」や「グランド・ブダペスト・ホテル」が傑作たりえたのは、こういう試行錯誤を経たからなのだろう。
かくなる上はと、H・ホークス。傑作と評価の高い「コンドル」を見る。今回初見。これまで見ずにいたのは、飛行機乗りの話=戦争映画と勘違いしていたからだ。確かに飛行機野郎たちの話だが、この映画に登場する飛行機は郵便物等を運ぶ、きわめて平和的なもの。だからと言って、ホークスの映画である。ほのぼのとした話であろうはずはない。
舞台は南米の港町。港に船が入って来る。乗客がぞろぞろ降りて来る。大量の荷物が下ろされる。ふたりの男が現われて、女性を物色している。船から降りてきたひとりの女に目をつけ、後を追う。男たちがアメリカ人だと分かると、女は彼らを受け入れ、3人で酒場に入る。話している間に、彼らは飛行気乗りで、彼女はショーガールでこれからニューヨークに帰るところだと分かる。そこへ、ケーリー・グラント演じる航空会社のボスが現われ、ふたりの男のひとりに、仕事を命じる。が、飛び立った男の飛行機は、天候状態悪化のために飛行場に戻ってくるが、着陸に失敗し、亡くなる。ここまで15~20分くらいだが、とにかく騒々しい。白・黒・赤、様々な肌色の人間が行き交い、その間を縫うように、牛、ロバ、犬、アヒル等々の動物達も闊歩する。常に画面からはみ出すほどの人間や動物たちで溢れかえっている中で、主な登場人物たち個々の形象や関係をサクサクと明示していく。呆然とするほどの手際よさ。思わぬ事故で仲間のひとりが亡くなったというのに、残された者たちは、すこぶるつきの陽気さで歌を歌う。むろん、そこには哀しみの欠片さえないのだが、むろん、だからこそ彼らの哀しみの深さが伝わってくる。こんな離れ業、ホークス以外に誰が出来よう。
場面の大半は、K・グラントが働く航空会社のオフィスと、それに隣接する、彼の共同経営者(?)が経営する酒場、それに、飛行中の飛行機の中だから、これはほとんど室内劇、密室劇と言っていいが、それと感じさせないところもまたホークスの手腕だろう。なんと解放的なことか。男の友情、K・グラントをめぐるふたりの女の確執、等々、語られる物語自体は通俗きわまりないものと言っていいが、次はどうなる? というサスペンスが途切れることなく、退屈する隙がない。連発される小憎らしい台詞にも唸らされるが、小道具の使い方がこれまた絶妙で、例を挙げればキリがないので、これらには触れない。
先週の土曜の戯曲講座。講座生には、今月終わりまでに戯曲一本を提出するようにと課題を申し渡してあって、今回は、個々が目下の作業中の困難について語り、それに対してわたしが処方箋を伝えるというもの。終了後、要するに、こういうものを書けばいいのだよと、ホークスの「特急20世紀」(舞台劇の映画化)を見せる。笑ったなあ。