黙して語らぬ父への変貌 「男たちの旅路」について②2015.09.03
前回にも書いたように、「男たちの旅路」は、3話1部となっている。各話はそれぞれ完結したものだが、部は部としての「まとまり」があり、他の部とは微妙な差異がある。1部は、主な登場人物である鶴田、水谷、桃井、それに森田健作の出会いとそれぞれのひととなり、警備員の仕事内容の紹介が主となっている。
2部では、鶴田のいかにも「家父長的な主張」が全面展開する。鶴田舌好調でどれも傑作。「廃車置場」と題された第1話では、警備を任された区域のすぐ近くで事件が起き、それに気づいたにもかかわらず対応を怠った水谷たちを鶴田は叱責する。若いふたりが、自分たちの管轄外だし、本来の持ち場を離れた間に工場内でなにかあったら …と反論すると、鶴田は「なぜ金網の外へ出ない。靴屋にかばんの修理を頼みに来た客に、かばん屋に行ってくれと言うようなヤツはわたしは嫌いだ。近所にかばん屋がないから来てるんだ。決まりからはみ出さないような人間はわたしは嫌いだ」と激昂する。
2話「冬の樹」。水谷と桃井が警備を担当していたアイドルグループのコンサートでまたもや事件。終了後、車に乗り込もうとするグループにファンが押し寄せて大混乱になり、その際に、ひとりの女子高生が押し倒されて軽傷をおってしまう。後日、彼女の家に謝罪に出かけた鶴田に、父親は、警備の不備と日頃の社員教育のいい加減さを激しくなじる。むろん、鶴田が黙っているはずがない。「あなたがわたしどもを責めるのはよく分かる。しかし、あなたは子どもにどう対応した? 怒ったか。大勢の人間がひとっところに押し寄せればどうなるか、どうしてそんなことが分からなかったかと怒るべきじゃないのか。そういうことを教えてやるのが親の、父親の務めじゃないのか」と反撃する。まさに鶴田節全開といった感じだが、3部に入ると一転、様相が変わる。
「シルバーシート」と題された第1話は、路面電車に立て籠もる老人たちの話だ。彼らの説得を依頼された鶴田は車内に乗り込み、あなた方はなんのためにこんなことをしているのか。言いたいことがあれば外に出て、堂々と言いたいことを言えばいいじゃないかと言うが、老人たちは、わたしらみたいに社会の外に弾き出されたものがなにを言ったって、誰も耳を傾けてくれない。あんたもわたし等くらいの歳になれば、その辛さや悔しさが分かるはずだと言う。鶴田はそれに反論が出来ない。
第2話のタイトルは「墓場の島」。田舎のスナックで弾き語りをしていた青年が、芸能マネージャーの目にとまり、上京して一躍スターとなる。しかし、殺人的なスケジュールに追いまくられる生活に疑問を感じた彼は、彼の護衛をおおせつかっていた水谷に、「俺は明日のステージで引退表明する」と告白し、もしマネージャーがそれを阻止しようとしたら、彼を阻止してくれと頼む。水谷はそれを鶴田に伝え、鶴田はマネージャーに彼の望むようにしてやってほしいと頼む。マネージャーは、せっかく手に入れたいまの身分や生活を、おまえはほんとに捨てられるのか、捨てていいのかと青年の説得を試みる。青年は結局、引退表明が出来ない。水谷は鶴田に、「やっぱりいまの若いヤツはだらしがないと思ってるでしょ。でもあいつは違うよ。あいつは本当の歌をうたいたいんだ。そのためにあいつは頑張っているんだ」と涙ながらに語る。ここでも鶴田は「黙して語らぬ父」になってしまう。
そして第3話の「別離」になるのだが、すでに予定の文字数を超えている。