ちゃんとやれタケウチ① ちあきなおみからエンケンへ2015.10.08
BSジャパンの「ちあきなおみスペシャル」をみる。彼女の「矢切の渡し」は何度も聴いているが、あまりのうまさに舌打ちしてしまう。なぜ? 嫉妬でしょ。初めて聴く「リンゴ村から」にも驚嘆。わたしが子供のころに、三橋美智也が歌っていたもので、「おぼえているかい 故郷の村を」という歌詞から始まるのだが、この「おぼえているかい」をちあきは語りかけるように歌うのだ。歌詞を普通に読めば、これが、リンゴ村から都会に出て行った友(恋人?)への切ない呼びかけの唄であることは、おそらく誰でも分かるはずだが、しかし少なくともわたしは、ちあきの唄を聴くまで、それに気づかなかった、というか、さほどの哀切を感じることはなかった。ちあきの唄は、一音一音、一語一語に色合いがあって、それが歌われる風景とそこに佇む人々の心中を、即ち、情景を鮮やかに浮かび上がらせる。
興奮冷めやらぬまま、PCを起動させ、ユーチューブで彼女の唄を聴く。いつものように、「名月赤城山」に痺れ、「男の友情」に胸を衝かれ …。ふと、語尾の一音をソフトランディングする唱法に、これは誰かに似ているなと思い、それは西田佐知子ではないかと気がついて、西田の「裏町酒場」と「アカシアの雨がやむとき」を聴く。やっぱりそうだった。このひとの唱法は、ぶっきら棒に見える(聴こえる)が、それが歌われているヒロインの心情にぴたりとはまる仕掛けになっている。「アカシア~」は元「赤い鳥」の山本潤子も歌っていて、それも聴く。画面右側のデータで、遠藤賢司(通称エンケン)の「カレーライス」を発見。この唄は、大学を辞め、何もすることのない時に、よく部屋でギターを弾きながら歌っていた。コードが三つくらいしかなく(多分)、だからわたしにも簡単に弾けたからだ。
エンケンさんの曲は、わたしの芝居で二度、使わせてもらったことがある。最初は「大鴉」で「ほんとだよ」と「星空のワルツ」。二度目は、「ラストワルツ」で、この時も「星空の~」。エンケンさんは佐野さんの古い友達。「ラストワルツ」の時は芝居を見に来てくれて、お土産もいただいた。それは、小さなガラスケースに入った東京タワーで、タワーの脇に、「遠藤賢司 30周年コンサート」と書かれた木製の道標(?)が置かれたもの。今こうして書いている部屋の本棚に、鎮座ましましている。
「カレーライス」を聴いたら懐かしさがつのり、「星空の~」を聴こうと思ったが、ユーチューブには見当たらず、それが入ったCDを探すのも面倒だったので、「夢よ叫べ」があったので、それを聴く。これが …!
目下進行中の戯曲「ランドルト環」は、ラストには、チェーホフの短編小説「ワーニカ」を置こうと考えていて。それは、靴屋で働いている10歳の少年ワーニカが、仕事のあまりの過酷さに耐えきれなくなり、田舎に住む祖父に、おじいちゃんのところに帰りたいよと手紙を書くというお話。その手紙を、ネアンデルタール人を自称する男が読み上げる、とそこまでは決まっているのだが、ふと、そのバックに「夢よ叫べ」を流したらどうかと思いつき、ユーチューブから流れるそれにあわせ、自分で「手紙」を読んでみたら、もうどうにも涙が止まらなくなってしまい … (この稿続く)